銀賞で引退することが決まった私たちは、土曜日に芽衣歌と詩妃と一緒に、後輩へのプレゼントを買いに行くことにした。

引退式は翌日。

あの音を最後に、もうステージに立つことはない。

だからこそ、何かを残したかった。

後輩にありがとうを伝えたい。

お昼は、イタリア料理のチェーン店で食べることにした。

詩妃が、店の前で元気よく「3名ですー!」と声を上げる。

その声に、芽衣歌と私は笑った。

「誰かいそうじゃない?」

「吹部の誰か来てそう(笑)」

そんな話をしながら、席に案内される。

メニューを開いて、「パスタにする?」「ピザもいいな」なんて話していると—— 店の入り口から、見覚えのある顔がぞろぞろと入ってきた。

「えっ、まさか……」

同学年の吹奏楽メンバーだった。

私たちの代は15人。

茄知子と弥簔以外、全員が揃っていた。

「やっほー!」 私は自然に声をかけた。

こんな偶然ってあるんだなと思った。

みんな私服で、ちょっとおしゃれしていて、 「え、かわいい」「そのトップスどこで買ったん?」 そんな他愛ない会話が飛び交う。

ほかの人の邪魔になるので、私たち3人は、席に戻った。

「後輩って何が好きかな?」

「男子の後輩って、何あげたら喜ぶんだろ」

そんな話をしているうちに、あっという間に料理が運ばれてきた。

パスタの湯気が立ち上る。

家の面白い話とか、部活の裏話とか、どうでもいいことを話しながら、笑って食べた。

楽しかった。

食べ終わって、お会計を済ませると、ショッピングへ。

なんでも売ってる雑貨屋さんに入って、プレゼント選びが始まった。

「何が好きかわかんないね」

ホルンパートの伝統か、わかんないけど、毎年先輩にシュシュをもらっていたから、今年もシュシュにしよう。

それに、星音ちゃんは、SNSで絵を描いているのをよく投稿していた。

だから、ペンもいいかも。

それで決まり。

でも、話題は思ってもいなかった方向へ進んだ。

「ねえ、今年もサングラスやる?」

——サングラス。

私たちが入学した年、みら先輩の代の引退式で、サングラスをかけて登場した先輩がいた。

あれは、衝撃だった。

面白かったし、ちょっとかっこよかった。

でも、私は……なんとなく恥ずかしかった。

部活ではそういうキャラじゃなかったし、桜田先生の性格的にも、たぶんちょっと引かれる気がしていた。

「どうしよう、どうしよう」 心の中で焦っていると、芽衣歌がぽつりと言った。

「やっぱり、やめようかなー」

その言葉に、私はひっそりと、心の中でほっとした。 ——安心した。(笑)



夕方、家に帰ると、静かな部屋の中でレターセットを広げた。

選んだ便箋は、星音ちゃんの雰囲気に合う、淡いむらさき。

それに私の好きな色だった。

ペンを握る手が少しだけ震えていた。

「短い間だったけど、ありがとう。 星音ちゃん、いつも話しかけてくれてほんとうれしかった、ありがとう。 いつも、言ったことすぐにやってくれるし、助かったし、礼儀良くて感心してた! 3年間本当にあっという間だったから、後悔のないように過ごしてね!」

その言葉を、丁寧に書き終えたあと、便箋を折りたたみ、封筒に入れた。

そして、そっとシールで封をした。

キラキラした星の形のシール。

手紙を書き終えたあと、少しだけ涙がにじんだ。

でも、それは悲しみじゃなくて、感謝の涙と、寂しさの涙だった。

この手紙が、星音ちゃんの心に残ってくれたらいいな。

そう思いながら、封筒を机の上に置いた。

明日、引退式。

きっとみんなの前でも、言うことがあるだろう。

最後の「ありがとう」を、伝える日。

きっと私は、緊張して、言えなくなるから、ノートにまとめた。


3年間ありがとうございました。

吹奏楽に入って、よかったことがたくさんあります。

初めての楽器に出会えたこと、私の趣味、夢中になれることが見つかったこと、ス総額があるから学校に行きたいと思えるようになったこと、みんなで合わせて、ひとつのものを作り上げるということ。

それがすごく楽しくて、吹奏楽に没頭できました。

本当にありがとうございました。

このメンバーだからこそ、できたこともたくさんあるし、このメンバーで、すごくよかったなと思います。

3年、本当にあっという間だから、後悔の内容に過ごしてください。本当にありがとうございました


あした、これを見て言うんだ。そんな覚悟を決めた。