舞台袖に戻ると、みんなが小さく笑い合った。

「よかったね」

「揃ってたよね」

そんな言葉が、ささやくように交わされる。

でも、どこかみんなの目は不安げだった。

結果が出るまでは、まだ“終わった”とは言えない。

楽器を片づける。

トラックに積み込む。

その作業は、いつもより静かだった。

桜田先生は、少し疲れた顔で「おつかれさま」と言ってくれた。

その声に、胸がじんとした。

ホールのロビーに戻ると、他校の生徒たちがざわざわと集まっていた。

午後の部の人が来ている。いいな、今からか、、と思う自分がいた。

バスに乗り、学校に戻る。

バスの中は、思い出話であふれていた。

私も、詩妃と一緒に思い出話をした。

学校で、楽器を片付け、帰宅する。

今日は、詩妃とお祭りに行く予定があった。

ちょうど今日でよかった。

なぜなら、一人だと、もう早くに結果を見てしまいそうだったから。

夕方、浴衣に着替えて駅前で詩妃と待ち合わせた。

「ねえ、かき氷食べようよ!!」

詩妃が笑う。

屋台の音、焼きそばの匂い、遠くから聞こえる太鼓の音。

全部が、今日の演奏の余韻を包み込んでくれるようだった。

でも、心の奥では、ずっと結果のことが気になっていた。

スマホを開けば、きっともう出ている。

でも、開けなかった。

「まだ見ないの?」

詩妃が、かすかに聞いた。

「うん……今は、このお祭りを楽しみたい。これで見ちゃったら、お祭りどころじゃなくなる気がする」

金賞じゃなかったら、終わるかもしれない。

でも、今はそれよりも、詩妃と並んで歩くこの時間が、何より大切だった。

「ねえ、もし終わってもさ」 詩妃が言った。

「うちら、いい音、出せたよね」

私は、うなずいた。

「うん。あれは、いい音だった、前のあたしらに比べたら断然成長してる!」

スマホは、まだポケットの中。

結果は、まだ見ない。

今は、ただこの夜を、大切にしたかった。



しばらくして、お祭りの予定表を見ていると、地元の吹奏楽団の演奏があると書かれていた。

「見たいね!」と詩妃が言う。

場所を聞くと、かなり遠い。

でも、どうしても聴きたかった。

私は、浴衣が崩れるのも気にせず、走った。

ぎりぎりで間に合った。

少し離れた場所から音を待っていると、星音ちゃんの姿が見えた。

微妙な距離を保ちながら、そっと近づく。

その瞬間、音が始まった。

空気が震えるような音圧。

「え、すご……」 私と詩妃は、思わず声を漏らした。

その声に反応した星音ちゃんが、こちらを振り向いて言った。

「あっ、こんにちは!」

「こんにちは」と返しながら、私たちは演奏に耳を傾けた。

音が、夕焼け空に溶けていく。

さっきまで自分たちが吹いていた音とは違うけれど、同じ“音楽”だった。

演奏が終わり、屋台の灯りの下をぷらぷらと歩いていると、詩妃が言った。

「ねえ、結果……見ていい?」

私は、少し戸惑った。

まだ見たくなかった。

でも、詩妃が見るなら、私も見る。

「せーの、で開こう」

スマホを取り出す。

グループLINEに、誰かが結果を送っていた。

画面を開く。








——銀賞。














「……え」




一瞬、時間が止まった。

「やっぱり」と思う自分がいた。

でも、それ以上に、悲しかった。

学校生活の8割は、吹奏楽に費やした。

楽器と譜面と、仲間と先生と、全部がそこにあった。

「ああ……」 道の真ん中で立ち尽くしていたせいで、人にぶつかった。

「すみません」 そう言って、歩き出す。

私の中では、もう音は鳴っていなかった。