コンクール前日。

いつも通り、楽器を運ぶ。

だけど、今年は少し違っていた。

先生が妊娠しているから、大きな打楽器や譜面台の束は、私たちだけで運ばなければならなかった。

ティンパニの脚を畳むのも、バスドラムを台車に乗せるのも、全部自分たちで。


そのとき、ふと気づいた。

——今まで、先生に頼りすぎていたんだな。

困っていたら、すぐに駆けつけてくれる。

重いものも、黙って一緒に持ってくれる。

「先生って、なんでもできるな」って、そんなふうに思っていた。

でも、今年は違う。

先生は、少し申し訳なさそうに言った。

「ごめんね、偉そうに指示だけしかできないけど……」

その言葉に、胸がきゅっとなった。

先生は、何も“偉そう”なんかじゃない。

むしろ、今までどれだけ私たちのために動いてくれていたか、今になってやっとわかった。


本来なら、これも全部、自分たちでやるべきことだった。

それなのに——


でも、今は違う。

先生は、命を育てながら、私たちに音楽を教えてくれている。

楽器を運び終えたあと、私は先生の背中を見つめた。

その中に、もう一つの命がある。

明日、私たちは舞台に立つ。

先生と一緒に。

音で、気持ちで、全部を伝えるために。