楽器を運んで、バスに積み込んで、みんなで出発。
会場に着くと、いろんな学校の生徒たちがいた。
制服がめっちゃ可愛いところ。
挨拶がめっちゃ元気なところ。
先生がちょっと怖そうなところ。
色んな空気が混ざっていて、思ったより緊張してきた。
そんな空気を察したのか、先生が言った。
「今日はコンクールじゃなくて、フェスティバル!!祭りだよ!楽しんでやろ!!」
その一言で、みんなの表情がふっと和らいだ。
先生は今日もおしゃれだなーと思いつつ。
服装の組み方、普段と違うヒールの靴、なんかいつもさりげなくかっこいい。
舞台裏に来ると、前の学校が私のやりたい曲を演奏していた。
「いいなーー」 心の中で叫びながら、耳を傾けた。
そして、ついに私たちの出番。
席に着くと、先生が笑顔で指揮を始めた。
私たちも、それに乗って、体を揺らしながら演奏した。
ポップスの曲だったから、パフォーマンスもつけて、 音だけじゃなく、動きでも楽しさを伝えた。
無事に終了。
「楽しかったねー!」
笑い合いながら片づけをして、他の学校の演奏を聞いた。
「わー、この曲いいな。私もやりたい」
芽衣歌と詩妃と話しながら、音楽に浸った。
時間になり、楽器を積み込んで、学校へ戻った。
すごく楽しかった。 そしてふと、思った。
――やっぱり、まだ引退したくないな。
吹ふぇすが終わると、空気が一気に変わった。
コンクールまで、あと一か月。
楽譜は、まだ全然読めていない。
合奏すらしたことがない。
ほんとに、ピンチだった。
強豪校のところは、吹ふぇすの時点で、 ほぼ完成されたコンクール曲を披露していた。
「まずい…ほんとにやばい」
このままじゃ、県大会なんて夢のまた夢。
私たち3年生は、引退したくない気持ちでいっぱいだった。
だからこそ、県大会には絶対に行きたい。
でも、課題曲すら完成していない現実が、重くのしかかっていた。
先生も、だいぶ焦っていた。
「本気の日」が増えてきて、練習の空気もピリついていた。
だけど、最近は“働き方改革”の影響で、 先生の健康のために、部活の時間が減らされていた。
もともと週5だった練習は、週4に。
部活動時間も短くなっていた。
それは、吹奏楽部員にとっては、正直つらかった。
「迷惑だな…」 そう思ってしまった自分がいて、 でも、それを口に出したら怒られる気がして、 心の中にしまい込んだ。
時間は足りない。
でも、気持ちは溢れている。
「あと一か月、終わらせたくない」
コンクールまで、あと一か月。 課題曲の楽譜を見ていたら、ある場所に目が止まった。
アンサンブルの部分。
4人だけが吹く、特別な場所。
自分の楽譜をよく見ると、そこには――まさかのメロディー。
「まじ…ホルンにメロディー!?これは譲れない」
私の心に、火がついた。
まさかのメロディーの候補者は、トランペットの詩妃だった。
「わー奏流、一緒やん!メロディーか、まじか、対決かーー」
詩妃は、いつもの調子で笑いながら言った。
「えー詩妃と対決?これは、私がもらうとしよう」
「いやいや、これ、私のものやから!」
ふざけながら言い合いしていたけど、 内心では、焦っていた。
トランペットとホルン。
そんなの、
比べたら、普通の人はトランペットを選ぶはず。
透き通った音、大きな響き。
華やかなメロディーには、ぴったりの楽器。
それに比べて、ホルンは、少し音がこもっていて、 メロディーにはあまり使われない。
私は、ネットでいろんな団体の演奏を探した。
この部分をホルンが吹いている例はないか。
でも、見つかるのは、ほとんどトランペットばかり。
いくら漁ったって見つからなかった。
希望が、すこしずつ消えていく気がした。
でも、その気持ちは、一瞬で溶けた。
「なら、ほかの団体と違いをつけたらいいじゃん」
「珍しいホルンのメロディー、特徴的でいいじゃん」
そう思った瞬間、 私の中で、ホルンがもっと好きになった。
譲れない。
このメロディーは、私が吹く。
そのメロディーを見つけた日から、私は変わった。
ほかのパートは、ほぼ完ぺきに仕上げて、 残りの時間は、すべてそのメロディーの練習に注いだ。
問題は、highB♭。
楽譜に初めて出てきた音。
何度吹いても、出ない。
「そんなの無理…」
折れそうになる日もあった。
でも、メロディーを吹くって決めたから、 そんなこと思ってる暇すらない。
私は、何度も何度も練習した。
トランペットは、ホルンより音域が高い。
詩妃は、その音を余裕で出していた。
「なんでホルンにこんな高い音吹かせるん!?」
怒りがわいてきたこともあった。
でも、ある日。
いつも通り高音の練習をしていたら、 その音が、出た。
「えっ」 叫びそうになった。
やばい、まじでうれしい。
希望が、見えた。
再び、私の火は燃え続けた。
そして、オーディションの日が来た。
先生が前に座って、一人ずつ吹いていく。
緊張で、手が震えた。
汗がびっしょり。
冷えて、キンキン。
先生は、そんなのお構いなしに、淡々と進めていく。
「はい、詩妃やってみて」
詩妃は、自信満々に「はい」と返事をして、 堂々とメロディーを吹いた。
「もう、無理やん…」
こんな堂々と吹けるなんて。
心が、少し折れかけた。
「次、奏流」
呼ばれて、私は「はい」と返事をした。
堂々と吹こうとした。
でも、少しだけ音がかすれた。
「ああ…終わったな」
「もう無理…」
そう思いながら、週末を迎えた。
オーディションの発表の日が、来た。
先生が部屋に入ってくると、空気がざわざわと揺れた。
オーディションがある人たちは、みんなそわそわしていて、 私は、たぶんその中で一番、ドキドキしていた。。
「こんなに命かけてる人、他にいないでしょ」
そう思うくらい、私はこのメロディーにすべてをかけていた。
先生は、いきなり言った。
「オーディションの人たちは、来てください」
私は、手をぎゅっと握りしめて、移動した。
すると、先生の口から思いがけない言葉が飛び出した。
「もう一回、最オーディションをすることになりました」
みんなが良すぎて、深夜まで迷い続けたけど、答えが出なかったらしい。
やばい、うれしい。
失敗した分、また練習できる。
来週の最オーディションに向けて、私はまたメロディー部分を練習した。
家に帰っても、そのことばかり考えて、音源を聞きまくった。
音源は、ほとんどトランペットが吹いていた。
「やっぱりペットがするんかな…」
そう思う日もあった。
そして、最オーディションの日。
多目的室に集められたみんなは、真剣なまなざしで練習していた。
先生が来て、「オーディションします」の声。
私の体は震えた。
人生をかける思いで。
詩妃は、やっぱり堂々としていて、自信満々だった。
なのに、私は、自信がなかった。 highB♭は出るようになったけど、まぐれだった。
ドキドキしすぎて、普段間違えないところの音を間違えた。
吹き終わった後、先生が「あーー…」って感じで、 もう、察していた。
そして、結果はすぐに報告された。
私は、また手を握りしめて、願った。
「お願いします、ほんとにメロディーほしいです…」
この時間がすごく長く感じた
「では、メロディー発表します。メロディーは、 トランペット、詩妃さん」
その瞬間、何も感じなくなるみたいに、頭が真っ白になった。
あの時みたいに、頭が殴られたような感覚。
そのすき間から、詩妃の喜ぶ声が聞こえた。
しばらくして、涙があふれそうになった。
でも、こんなところで泣きたくない。
そう思って、みんながよそ見している間に、そっと涙をぬぐった。
メロディーは吹けなかった。
でも、それで詩妃とケンカすることはなかった。
それは、自分の力不足だと思ったから。
だから私は、詩妃を応援した。
そして、ほかの練習に取り掛かった。
合奏では、忘れないようにメモ書きをたくさんして、 できるだけの努力を重ねた。
その間に、自由曲の練習も始まっていた。
でも、ホルンの楽譜は、裏打ちばかり。
正直、つまらなかった。
やることがなくて、暇だなと思う日もあった。
そんなとき、練習室の扉が開いた。
「あ、え、あゆか先輩!!こんにちは!!」
懐かしい笑顔がそこにあった。
先輩はさらにおしゃれになっていた。
あの頃、ささっと進めてくれて、頼りに あゆか先輩が、練習を見に来てくれたのだ。
「コンクールの曲ってなにやるの?」
そう聞かれて、私は楽譜を見せた。
先輩は、ぱらぱらと目を通して、すぐに言った。
「え、これ…?裏打ちばっかりやん」
「そーなんですよ!正直つまんなくて…(笑)」
私がそう言うと、先輩は吹き出した。
「いやーこれは暇やわ(笑)えーー桜田、あの人なんでこの曲にしたんやー」
文句を言いながらも、どこか楽しそうだった。
その言葉に、私もつられて笑った。
なんだか、気持ちが軽くなった。
「んーこれなら、今日くらい喋って過ごそ!」 先輩はそう言って、椅子に座った。
裏打ちばかりの楽譜も、 先輩の笑い声が重なると、少しだけ楽しくなった。
会場に着くと、いろんな学校の生徒たちがいた。
制服がめっちゃ可愛いところ。
挨拶がめっちゃ元気なところ。
先生がちょっと怖そうなところ。
色んな空気が混ざっていて、思ったより緊張してきた。
そんな空気を察したのか、先生が言った。
「今日はコンクールじゃなくて、フェスティバル!!祭りだよ!楽しんでやろ!!」
その一言で、みんなの表情がふっと和らいだ。
先生は今日もおしゃれだなーと思いつつ。
服装の組み方、普段と違うヒールの靴、なんかいつもさりげなくかっこいい。
舞台裏に来ると、前の学校が私のやりたい曲を演奏していた。
「いいなーー」 心の中で叫びながら、耳を傾けた。
そして、ついに私たちの出番。
席に着くと、先生が笑顔で指揮を始めた。
私たちも、それに乗って、体を揺らしながら演奏した。
ポップスの曲だったから、パフォーマンスもつけて、 音だけじゃなく、動きでも楽しさを伝えた。
無事に終了。
「楽しかったねー!」
笑い合いながら片づけをして、他の学校の演奏を聞いた。
「わー、この曲いいな。私もやりたい」
芽衣歌と詩妃と話しながら、音楽に浸った。
時間になり、楽器を積み込んで、学校へ戻った。
すごく楽しかった。 そしてふと、思った。
――やっぱり、まだ引退したくないな。
吹ふぇすが終わると、空気が一気に変わった。
コンクールまで、あと一か月。
楽譜は、まだ全然読めていない。
合奏すらしたことがない。
ほんとに、ピンチだった。
強豪校のところは、吹ふぇすの時点で、 ほぼ完成されたコンクール曲を披露していた。
「まずい…ほんとにやばい」
このままじゃ、県大会なんて夢のまた夢。
私たち3年生は、引退したくない気持ちでいっぱいだった。
だからこそ、県大会には絶対に行きたい。
でも、課題曲すら完成していない現実が、重くのしかかっていた。
先生も、だいぶ焦っていた。
「本気の日」が増えてきて、練習の空気もピリついていた。
だけど、最近は“働き方改革”の影響で、 先生の健康のために、部活の時間が減らされていた。
もともと週5だった練習は、週4に。
部活動時間も短くなっていた。
それは、吹奏楽部員にとっては、正直つらかった。
「迷惑だな…」 そう思ってしまった自分がいて、 でも、それを口に出したら怒られる気がして、 心の中にしまい込んだ。
時間は足りない。
でも、気持ちは溢れている。
「あと一か月、終わらせたくない」
コンクールまで、あと一か月。 課題曲の楽譜を見ていたら、ある場所に目が止まった。
アンサンブルの部分。
4人だけが吹く、特別な場所。
自分の楽譜をよく見ると、そこには――まさかのメロディー。
「まじ…ホルンにメロディー!?これは譲れない」
私の心に、火がついた。
まさかのメロディーの候補者は、トランペットの詩妃だった。
「わー奏流、一緒やん!メロディーか、まじか、対決かーー」
詩妃は、いつもの調子で笑いながら言った。
「えー詩妃と対決?これは、私がもらうとしよう」
「いやいや、これ、私のものやから!」
ふざけながら言い合いしていたけど、 内心では、焦っていた。
トランペットとホルン。
そんなの、
比べたら、普通の人はトランペットを選ぶはず。
透き通った音、大きな響き。
華やかなメロディーには、ぴったりの楽器。
それに比べて、ホルンは、少し音がこもっていて、 メロディーにはあまり使われない。
私は、ネットでいろんな団体の演奏を探した。
この部分をホルンが吹いている例はないか。
でも、見つかるのは、ほとんどトランペットばかり。
いくら漁ったって見つからなかった。
希望が、すこしずつ消えていく気がした。
でも、その気持ちは、一瞬で溶けた。
「なら、ほかの団体と違いをつけたらいいじゃん」
「珍しいホルンのメロディー、特徴的でいいじゃん」
そう思った瞬間、 私の中で、ホルンがもっと好きになった。
譲れない。
このメロディーは、私が吹く。
そのメロディーを見つけた日から、私は変わった。
ほかのパートは、ほぼ完ぺきに仕上げて、 残りの時間は、すべてそのメロディーの練習に注いだ。
問題は、highB♭。
楽譜に初めて出てきた音。
何度吹いても、出ない。
「そんなの無理…」
折れそうになる日もあった。
でも、メロディーを吹くって決めたから、 そんなこと思ってる暇すらない。
私は、何度も何度も練習した。
トランペットは、ホルンより音域が高い。
詩妃は、その音を余裕で出していた。
「なんでホルンにこんな高い音吹かせるん!?」
怒りがわいてきたこともあった。
でも、ある日。
いつも通り高音の練習をしていたら、 その音が、出た。
「えっ」 叫びそうになった。
やばい、まじでうれしい。
希望が、見えた。
再び、私の火は燃え続けた。
そして、オーディションの日が来た。
先生が前に座って、一人ずつ吹いていく。
緊張で、手が震えた。
汗がびっしょり。
冷えて、キンキン。
先生は、そんなのお構いなしに、淡々と進めていく。
「はい、詩妃やってみて」
詩妃は、自信満々に「はい」と返事をして、 堂々とメロディーを吹いた。
「もう、無理やん…」
こんな堂々と吹けるなんて。
心が、少し折れかけた。
「次、奏流」
呼ばれて、私は「はい」と返事をした。
堂々と吹こうとした。
でも、少しだけ音がかすれた。
「ああ…終わったな」
「もう無理…」
そう思いながら、週末を迎えた。
オーディションの発表の日が、来た。
先生が部屋に入ってくると、空気がざわざわと揺れた。
オーディションがある人たちは、みんなそわそわしていて、 私は、たぶんその中で一番、ドキドキしていた。。
「こんなに命かけてる人、他にいないでしょ」
そう思うくらい、私はこのメロディーにすべてをかけていた。
先生は、いきなり言った。
「オーディションの人たちは、来てください」
私は、手をぎゅっと握りしめて、移動した。
すると、先生の口から思いがけない言葉が飛び出した。
「もう一回、最オーディションをすることになりました」
みんなが良すぎて、深夜まで迷い続けたけど、答えが出なかったらしい。
やばい、うれしい。
失敗した分、また練習できる。
来週の最オーディションに向けて、私はまたメロディー部分を練習した。
家に帰っても、そのことばかり考えて、音源を聞きまくった。
音源は、ほとんどトランペットが吹いていた。
「やっぱりペットがするんかな…」
そう思う日もあった。
そして、最オーディションの日。
多目的室に集められたみんなは、真剣なまなざしで練習していた。
先生が来て、「オーディションします」の声。
私の体は震えた。
人生をかける思いで。
詩妃は、やっぱり堂々としていて、自信満々だった。
なのに、私は、自信がなかった。 highB♭は出るようになったけど、まぐれだった。
ドキドキしすぎて、普段間違えないところの音を間違えた。
吹き終わった後、先生が「あーー…」って感じで、 もう、察していた。
そして、結果はすぐに報告された。
私は、また手を握りしめて、願った。
「お願いします、ほんとにメロディーほしいです…」
この時間がすごく長く感じた
「では、メロディー発表します。メロディーは、 トランペット、詩妃さん」
その瞬間、何も感じなくなるみたいに、頭が真っ白になった。
あの時みたいに、頭が殴られたような感覚。
そのすき間から、詩妃の喜ぶ声が聞こえた。
しばらくして、涙があふれそうになった。
でも、こんなところで泣きたくない。
そう思って、みんながよそ見している間に、そっと涙をぬぐった。
メロディーは吹けなかった。
でも、それで詩妃とケンカすることはなかった。
それは、自分の力不足だと思ったから。
だから私は、詩妃を応援した。
そして、ほかの練習に取り掛かった。
合奏では、忘れないようにメモ書きをたくさんして、 できるだけの努力を重ねた。
その間に、自由曲の練習も始まっていた。
でも、ホルンの楽譜は、裏打ちばかり。
正直、つまらなかった。
やることがなくて、暇だなと思う日もあった。
そんなとき、練習室の扉が開いた。
「あ、え、あゆか先輩!!こんにちは!!」
懐かしい笑顔がそこにあった。
先輩はさらにおしゃれになっていた。
あの頃、ささっと進めてくれて、頼りに あゆか先輩が、練習を見に来てくれたのだ。
「コンクールの曲ってなにやるの?」
そう聞かれて、私は楽譜を見せた。
先輩は、ぱらぱらと目を通して、すぐに言った。
「え、これ…?裏打ちばっかりやん」
「そーなんですよ!正直つまんなくて…(笑)」
私がそう言うと、先輩は吹き出した。
「いやーこれは暇やわ(笑)えーー桜田、あの人なんでこの曲にしたんやー」
文句を言いながらも、どこか楽しそうだった。
その言葉に、私もつられて笑った。
なんだか、気持ちが軽くなった。
「んーこれなら、今日くらい喋って過ごそ!」 先輩はそう言って、椅子に座った。
裏打ちばかりの楽譜も、 先輩の笑い声が重なると、少しだけ楽しくなった。


