体制が始まって、少し経った頃。

部室には、少しずつ新しい空気が流れ始めていた。

そして、冬の訪れとともに、アンコンの時期がやってきた。

桜田先生は、部員を四人ずつのグループに分け、アンコンに出るために、校内オーディションを行うと言った。

六つのグループができて、その中で一番良かったグループが、アンサンブルコンテストに出場するらしい。


私は、美沙ちゃん(トランペット)、あかりちゃん(トロンボーン)、芽衣歌ちゃん(ユーフォニアム)、そして私の四人で一つのグループになった。

演奏する曲は「ターコイズブルー」。

最初は優しく、穏やかに始まり、途中から少し元気に、そして軽やかに駆け抜けていくような曲だった。

グループが決まった翌日から、私たちはすぐに練習を始めた。

冬の平日は、練習時間がたったの三十分。

だからこそ、みんなの集中力はすごかった。

チャイムの音に気づかず、部長に怒られたことも何度かあった。

でも、それくらいみんな熱心に取り組んでいた。

桜田先生が、土曜日には、呼吸の練習や、特別なメニューも取り入れてくれた。

そして、三者面談の週。

桜田先生から、ある“ミッション”が届いた。

「風船を一息で大きく膨らませること」

それは、呼吸の力を鍛えるための練習だった。

楽器を吹くときの音の伸びが変わるらしい。

みんなで笑いながら風船を膨らませて、少しずつグループの空気も柔らかくなっていった。



そして、校内オーディションの日がやってきた。

朝の部室は、いつもより静かだった。

六つのグループ、それぞれが緊張と期待を抱えて、音を整えていた。

私たちのグループは6番目。

一番最後。

順番が近づくにつれて、胸の奥がじわじわと熱くなっていく。


ステージに立ち、楽器を構えた瞬間、 これまでの練習の日々が、ふっとよみがえった。

初めのメロディー、美沙ちゃんのトランペットが、やさしく空気を包み込む。

あかりちゃんのトロンボーンが、深く支えてくれる。。

芽衣歌ちゃんのユーフォニアムが、私の音と重なって、 静かに広がっていった。

演奏が終わった瞬間、四人で目を合わせて、少しだけ笑った。

言葉にしなくても、わかっていた。 「やりきったね」って。

結果はまだわからない。

でも、今日の音は、このメンバーの中が深まるような柔らかい音だった。