外へ出ると太陽は西へ傾いていた。

まだ晴天だ。

帰るには早すぎる時間。

しかし美咲はバス停へ向かい歩き始める。


「美咲!もう帰るの?」


「うん。家の近くのドーナツ屋さん行こう。そこでお茶でもしよう。」


俯きながら美咲は言う。
触れられなくなったショックはまだ引きずっていた。

翔太は心配をしながら美咲の後をついて行った。


バスに乗り、帰る。
帰り道は静かだった。

ドーナツ屋の近くまで来ると甘い香りが漂う。
中へ入ると客はいない。

平日の日中だからだろう。


「貸切だね!美咲何食べる?」


チョコやストロベリー、黒糖やシナモン、たくさんの種類のドーナツが並んでいる。


「んー、チョコかなー…ストロベリーも、2個いっちゃお、翔太は?」


「俺もチョコがいい!シナモンのやつもいいな、飲み物はメロンソーダで!」


目を輝かせながら翔太は言う。
トレーにドーナツを並べレジへ行く。


「飲み物はコーヒーとメロンソーダで」


「……?かしこまりました」


店員が少し間を置き承諾する。

一人で飲み物2個頼むのは不思議だろう。
美咲は気にせず飲み物を受け取り席に着いた。

皿にはドーナツが4つ。飲み物が2つ。

美咲は向かい側に座る翔太の前にメロンソーダを置いた。
炭酸が抜けていく。


「美咲、そろそろ機嫌なおしてよ……この時間もったいないよ……俺だってさみしい、仕方ないよ」


美咲はハッとし顔を上げる。


「そうだよね……明日でラストだし!翔太だってさみしいよね!」


楽しまなきゃ。
今この時間を。

あと少しで消えてしまう愛しい君との時間を。


美咲はドーナツを4つ頬張り、コーヒーで流し込む。

メロンソーダはさすがに飲みきれず持ち帰りのカップに入れてもらった。

帰り道、1口飲むと炭酸はすっかり抜けていた。


太陽は沈みかけ、空はオレンジと紺色のグラデーションがかかっている。
星がちらちらと顔を出していた。

「美咲、今日は楽しかったな。ショックなこともあったけど……まぁ明日ラスト楽しもうぜ!」


「うん!家帰ったら何しよっか」

「あ、美咲、家帰る前にいいか?ちょっと俺ん家寄ってもらっていい?」

「いいけど、どうしたの?」

「やっぱ、親の顔は見ときたくてな……」


悲しそうに笑う翔太。
美咲はもちろんと言い、翔太の家へ向かう。

家の前に着くと明かりがひとつ。
インターホンを鳴らした。

ドアが開き、翔太の母親が出てくる。


「美咲ちゃん?!あら、あーどうしましょ、お父さん!美咲ちゃん来てくれたわよ」


階段を降りる音が聞こえ翔太の父が出てくる。


「美咲ちゃんこんばんは、よくきてくれたね。翔太の部屋見に来るかい?」


「はい、お邪魔します」


美咲は玄関へあがり、翔太の父が誘導する部屋へ向かった。
ひとつだけついていた部屋の明かりは翔太の部屋だった。
部屋の中はついさっきまで誰かが生活していたと思わせるほど、温かみがある。

美咲は翔太が使っていた机の前へ行き、メロンソーダを置き、カバンからは今日買ったクラゲのペンを置く。


「美咲ちゃんゆっくりしてってね」


翔太の両親はドアを閉め、美咲をひとりにした。