よりによって、なぜ変顔なのか。

クスッと笑うと、前に並んでいた年配のおばあさんが振り向いた。
不思議そうな顔で見てくる。

少し恥ずかしさが出てきた。


バスが到着し、座席に着く。
しばらくバスに揺られている。

手は繋いだまま。


目的地に到着しバスを降りると潮の匂いがした。
風は強く、日差しで少し気温が上がっていた。

「美咲、開館までまだ時間あるよな、海散歩しないか?」


そういい手を引く。
砂浜には波で寄せられたワカメなどが落ちていた。


「風ちょっと強いね、翔太は水族館で何みたい?」


「ペンギン一択!絶対ペンギンは見るべき!美咲は?」


「私は、うーんカワウソ?イルカショーもみたい」


「いいね〜イルカショーは絶対見よう」


手を繋ぎながら海岸を歩く。

2人は海岸にしゃがみこみ海の水に手を入れる。
海水は冷たい。

「えいっ」


美咲は手についた海水を翔太へかけた。


「うわっやったな!」

翔太は笑いながらやり返そうとしたが手を止めた。


「いやーさすがに俺のために化粧してくれたんだし、水かけらんねーわ」


美咲は目を丸くし、その後笑う。
そういう優しさが大好きなのだ。

美咲は海岸にあるシャワーで手を洗いハンカチで拭う。


「そろそろ行こっか。水族館!」


翔太の手を取り水族館へ向かう。
足取りは軽い。

水族館には何人か人がいた。
平日の割には多い。

チケット売り場へ行き美咲は財布を取る。


「学生2枚で」


「2枚ですね」


2枚分支払い翔太にチケットを渡す。


「いや俺必要ないような……」


「思い出!あ、でもチケットだけ浮いて見えちゃうかな?私が持ってるね。」


チケットを2枚ポケットへしまった。
そのまま入場口へ入ると大きなサメの模型が出迎えてくれた。

中は薄暗く小さな水槽が並んでいた。

「翔太見て!クリオネいる!」


「まじ?!本当だ!ちいせー可愛い」


小さい子供のようにふたりははしゃいだ。
周りの人からは少し変な目で見られている。
しかし、美咲にはどうでもよかった。


幸せ。


ただそれだけが心にあった。


奥へ進むと大きな水槽がある。
中にはイワシの魚群やサメ、エイなどが泳いでいた。


スマホを取りだし内カメラにした。


「写真撮ろうよ」


「俺、写真に写る?」


「分かんない」


美咲はシャッターを切った。

しかし翔太は見えなかった。
美咲とイワシの魚群だけが写真にはいた。


「さみしいね、これ、やっぱりいないんだ。翔太って」


「そりゃぁな、ま、あとから合成でもしといてくれ」


翔太は笑ってるが美咲はあまり上手く笑えなかった。

スマホをしまい、2人は先へ進んだ。