「いや、絶対好きだね、男の俺には分かっちゃうんだよな」
「結局勘だよね、それ。それに私には翔太いるし」
「そこ。」
翔太は美咲の顔の前に指を立てた。
美咲の顔を見つめる。
「なによ」
「他の人、好きになってもいいんだからな」
「はぁ?」
「どうせ俺は死んでる。美咲には普通に好きな人を作って結婚して家庭を作って……幸せになって欲しい」
弁当の中身は空になっていた。
美咲は蓋を閉めて立ち上がる。
何も言わず翔太に背を向け扉の前へ行った。
「そういうのいいから。私には翔太だけ。桂木くんがどうとかどうでもいい。しかもタイプじゃない」
「ははっまぁたしかに、俺とは正反対で頭良くて優しさの塊って感じの男だもんなあいつ」
「翔太はバカだけど誰よりも優しいよ」
スカートが風になびく。
翔太も立ち上がり扉へ向かう。
「美咲、俺……」
「ってやば!もう昼休み終わりじゃん!戻ろ!」
翔太の声をさえぎり、美咲は階段を降りる。
慌てて翔太も後を追いかけ階段を降りた。
西日が差し込む教室には秋風が吹き込みカーテンを揺らしている。
少し暑いが風が心地よい。
昼食をとったせいか、眠くなってきていた。
午後の授業が始まると翔太は教室を歩き回る。
美咲の机の前へ行き話しかけたりもした。
その度に美咲はノートの隅に返事を書く。
美咲はバレないように笑いながらノートいっぱいになるまで翔太と会話をした。
授業が終わり中休み。
次の授業で学校は終わる。
「美咲〜今日ずっとひとりじゃん。なんかあった?」
「なんもないよ!今日はちょっとね、一人でいたくて」
「ま、そゆ日もあるよネー」
「いいのか?美咲、友達は大事だぞ」
美咲の友人が席に戻ったあと、翔太は言う。
気にしないでと言わんばかり首を横に振った。
「授業って眠くなるよなー美咲、寝られるとき寝ときなー成長期の子供は授業中も寝ていいってひいばあちゃんが言ってた」
絶対嘘だ。
ひいばあちゃんはそんなこと言わない。
笑いをこらえるのに必死だった。
そうこうしてるうちに最後の授業を知らせるチャイムが鳴る。
何故か翔太は律儀に自分の席へ戻った。
本当に、やんちゃで優しくて面白いな翔太は。
大好き……
軽く目をつぶる。
翔太との楽しい思い出が頭の中にたくさん流れてくる。
授業中のふざけ合い。
たまに怒られたな。
先生たちも私と翔太が付き合ってるの知ってて…
そういえば屋上で一緒にお弁当食べたのも初めてじゃないような。
あぁ、あれは付き合う前だったっけ。
懐かしいなぁ……
美咲はそのまま眠りに落ちた。

