彼の好きな食べ物はドーナツ。

好きな本は意外にもミステリー。

好きな音楽は邦楽ロック。


「美咲!」

笑顔で名前を呼ぶ。
明るく元気でおちゃらけてて、いつも私を笑顔にしてくれた。


そんな彼がついこの間、事故で亡くなった。


電話をもらったのは学校から帰って数時間後。


彼の両親とも面識があった私には優先的に教えてくれた。
トラックとの衝突。
私と帰り道で別れたあとすぐの事だったらしい。


即死


最後の言葉も残せず亡くなっていった。


葬式が終わって、またいつもの日常に戻る。


クラスの子達は同情の目を向けていた。

そりゃそうだ。授業中でも関係ない。
彼がいない事実を突きつけられる度に泣いてしまった。


そして今日も私は放課後
彼が使っていた机に手を置く。


「翔太……なんで……私があの時、まだ帰らないでって言っていれば!!」


机に拳をぶつける。
誰もいなくなった教室には私の泣く声と机を叩く音だけが響いた。
止まらない涙。消えない後悔。

何度も何度も机を叩く。



「おいおい!美咲!そんな俺の机が憎いかよ〜?!」



ふと後ろから声が聞こえた。
たくさん聞いた声。
もう一度聞きたいと思った声。


振り返るとそこには彼がいた。



「翔太?!」



頬を強く引っ張りついでに引っぱたいてみた。
痛くて更に涙が出てくる。



「ちょっ……おい何してんだよ美咲。自分の顔ひっぱたくとか正気じゃねーな、てか相変わらず泣いてんなー」



翔太……!翔太……!
なんでここに!

翔太の胸に飛びつく。

触れる。

しかし体温はない。


「なんかさー美咲が心配で、あの世で3日間くらいいいだろってごねてたらこっちこれたわ」



頭をポリポリかきながら翔太は笑う。

余計に涙が止まらない。

これは幻覚なのか、しかし触れる声も聞こえる。
もう幻覚でもいい。

再度、強く抱きしめた。


「ホントのホントに翔太よね。てかあの世って何よ!3日間?もっといてよ!」


「無理言うなよ〜美咲〜俺だってもっといたいよ」


翔太は美咲を抱きしめ返す。
体温はないのに温もりを感じた。


「俺さ、まだやり残したことあるんだ。美咲と」


「なによ」


鼻をすすり涙を拭き、翔太を見る。


「行きたいとこ山ほどあんだよ!水族館に遊園地、美術館デートに制服着て放課後デート!タピオカ飲み行こうぜ!俺ほうじ茶ラテがいいなーあとドーナツ屋でコーヒーでも飲みながらゆっくり話したいし、図書館で一緒に勉強とか……」


翔太は美咲とやりたいことを長々という。


「翔太ったら……たしかにデートってデートはしたことないもんね。毎日教室で会ってたし。」


全部やろう。
この3日間でできること全部しよう。

美咲は泣くのをやめて翔太の手を握る。




ガラッ



教室のドアが開いた。