笑わない私が悪いのか。
 優しい貴方が酷いのか。


「生まれ変わってもまた君の恋人になれるかな」
 寂しそうに彼が私を見た。
 私は林檎をむく作業を止めずに反応しない。
 聞きたくない。何も言いたくない。泣きたくない。笑えない。

「生まれ変わりとか、輪廻とか君は信じないの?」

 穏やかな笑顔で聞く彼に腹が立った。
 私はわざと乱暴に音を立てお皿に林檎を置くと彼を睨みつけた。


「生まれ変わっても、とか輪廻とかより」

 私は彼の痩せ細った手を見つめた。

「早く元気になって……、『今』に心残りがないくらい生きようとは思わないの!?」

 なんで、諦めちゃうの!?
 なんでそんな寂しそうな顔するの!?


「ちゃんと今を生きたら、私の事なんて飽きる程に傍にいたら、生まれ変わりたいなんて思わないよ!」

 私は林檎の甘い匂いが仄かにする手で、慌てて涙を拭った。

「最近、君の笑顔見なくなった」

 彼は辛そうに起き上がると、優しく手の甲で私の涙を拭った。

「君の、笑顔が見たい」

 今にも泣き出しそうな顔。
 私の笑顔?
 何で見せなきゃいけないの。
 こんな真っ白な病室で。貴方の命を助けているのか、最後までのカウントダウンを刻んでいるのか分からない機械に囲まれて。点滴を打って青白い貴方のそばで。優しい言葉を吐く貴方は酷い。

 もっと一緒に居たいだけよ。
 一緒にお弁当を食べたり、文化祭の準備したり、クリスマスを過ごしたりチョコ作ったり、誕生日にプレゼントを悩んだろとか、それすら贅沢だから願ってない。
 何も、貴方が生きてくれること以外願ってない。
 それなのに、あきらめるように笑うあなたは、ひどい。ひどいひどいひどい。ひどいんだよ。

 残された私の事も考えて欲しい。
 悲しまない様に、私が貴方を嫌う様な言葉を吐いて欲しい。

「ごめんね?」

 彼が、首をかしげて見つめてきた。
 あぁ、分かっている。
 一番、辛いのは貴方だって。
 一番、怖いのは貴方だって。
 一番、泣きたいのも。
 だから沢山飲み込むの。沢山聞かないの。沢山見ないの。
 そして現実を信じないの。

「あーんして食べてくれたら許してあげる」

 私が不格好な林檎を彼の口元に運ぶ。
 彼が美味しそうに食べてくれたから、私はゆっくり笑った。