「もう俺に残された時間は少ないんだ」
 急激の展開。
 こっそり登ってみた閉鎖された屋上で、溶けかかったアイスを食べながら実隆(みのる)が言った。
 アイスじゃなくて炭酸ジュースを飲んでいた私は、ペットボトルの水滴ごと握りしめると、空を見上げた。
 ギラギラ輝く太陽は、もう夏ですよって教えてくれる。
 じりじりと焼けていく肌へのダメージは今は何も考えたくない。
「なんで? 明日世界が終わっちゃうの?」
「世界が終わるならこんな呑気に凜々花と屋上に侵入していない」
「不治の病なの?」
「俺は小中ずっと無遅刻無欠席」
「じゃあ転校するの?」
「うちの小さなスーパーが大型チェーン化する予定もないし、うちの親父にそんな経営能力は無い」
 じゃあわかんない。お手上げじゃん。
 温くなっていくジュースを床に置くと、スマホを見る。
 メッセージは一件。
 でも既読をつけたくなくて画面を見て固まる。
 返事をしたくないんだけど、いや、返事をしたくないから実隆とここに逃げてきたんだけど、今日の実隆はおかしい。
 例えば、廊下は左側を歩けとか、電車は駄目でバスは良いとか。パンをコンビニに買いに行こうとしたら、先回りして食べたかったパンとジュースを買っていたとか。体育館の裏は駄目とか。おかしいんだけど、もしかしたら夏休み前で浮かれているのかも。
夏の日差しと、遠くから蝉の声がする高校三年の一学期の終わりの日。
 私は今から三者面談で、実陸は今日は三者面談じゃないはずなのにアイスを食べながら私と時間を潰してくれていた。
 一学期のテストの結果と照らし合わせながら、私の未来が決まっていく。
 まあ、現実は私には何も決める権限は奪われていて無いに等しいんだけど。
 意味もなく炭酸ジュースを2,3回振りながらため息を吐く。
 塩素の匂いがするから、きっとどこかの学年はプールの授業があったんだろうな。
「今日を阻止したら、セーフなんだよ」
「だから何が?」
 実隆は狭いからとコンプレックスで絶対に見せてくれなかった額を、これ見よがしに前髪を上げて見せてきた。
 小さな実隆の額は汗でじんわりと湿っていたが、大きく零と書かれていた。
「……なにこれ、自分で書いたの?」
「俺じゃないけど、失敗したら数字が減っていくんだ」
 数字が減っていく。
 でも額に書かれた文字は零。つまり?
「ぜろ?」
「そう。今日がきっと最後」
「どういうこと?」
 実隆は乱れた前髪を整えながら、ゆっくりと私の方へ身体を向ける。
「最初は額に十って書かれてたんだよ。で、廊下の右側を歩いていた凜々花は校庭から飛んできた野球ボールで頭を打って……」
「打ってないよ」
 だって朝からずっと鬼のように左を歩けって実隆が監視してたから、ボールなんて飛んできてすらいない。
「そこで脳しんとうを起こした凜々花をお姫様抱っこして保健室に運んだのにーー凜々花は迎えに来たお隣の幼馴染みに抱きかかえられて帰って行った」
 何の話をしてるんだろう。
 実隆の昨日見た夢の話?
 実隆が私をお姫様抱っこしてくてるような未来は見えない。
 だって未来永劫友達たってとっくの昔に宣言されている。
「今日は、最後なんだろうな。最後のチャンス」
「ねえ、さっきから自分一人で話してない? それ、私に話してるの? 自分に問いかけてるの?」
 全然全貌が分からない話に退屈で欠伸が出そう。 そんな夢物語を話すんじゃなくて、私のこの未読のメッセージへ返信を考えて欲しい。
 この返信で私の人生は変わってしまうかも知れないのに。
「ごめん。心に余裕がなくて、今、すごい自分でも焦ってるのかも」
 両手で頭を掻く人を初めて見た。
 いつもどっか面白いんだよね。
 高校一年の初めて会った時もそう。
 牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡と、大きくなるからとダボダボの学ランを着せられた実隆は、ちょっとだけ面白かった。
 自己紹介で全国ロボットコンテストで中学生の部一位とかで推薦でこの高校に来たと言っていた。 私より頭一つ分小さかった実隆は、話す内容は人とズレてるのになんでか魅力的で、そして誰よりも楽しそうだった。
「まさか自分でロボットも作れるし、機械を分解できるし、飲料水の成分も分かっちゃう時代に」
「例えが何一つわかんないよ」
「まさか、九回も同じ朝を繰り返すとは思わなかったんだ」
 同じ朝を九回?
「いや、今日を合わせると十回。ずっとループしてる。壊れたロボットみたいだ」
 だから例えが分からないんだよね。
 でも……。
 でも私は頭が良くないけど、実隆が必死で何か難しいことに悩んでぶつかってるのは理解できるし、嘘をついたり言葉を飾っているような人ではないと分かってる。
 この温くなっていく炭酸ジュースの炭酸がゆっくり抜けていくような、そんな力の抜けた夏の日。
 目の前で何かに必死で足掻こうとしている実隆が、大好きだって胸が痛くなった。
 あんなチビ眼鏡だったのに。
 いつの間にか身長も私より高くなってるし、声も低くなったし、何故か泣きながらコンタクトレンズを目に入れる練習をしてマスターしちゃった。 暑いねってボタンを外す制服は、もうダボダボじゃない。
 君は大きく私の遙か先を歩んでいくけど、高校一年の初めて会った日から何一つ変わらないくしゃくしゃの笑顔を私に向けてくれるよね。
 それが叫びたくなるほど嬉しくて、そして涙がでそうなほど大好きだ。
 大好き。
 今すぐ抱きついて、大好きって伝えたくなるぐらい。
 高校最後の学祭では、僕の考えた最強のロボット展を開くらしい。有名な大学の教授やマスコミも現れるらしい。きっとどんどん有名になって私にはもう手が届かないだろうし。
「ねえ、実隆はロボットを作る天才なんでしょ」
「まあ、天才というか……好きな分野で認められるのは嬉しいけど」
「私の心もロボットにしてくれないかなあ……」
 感情はもういいや。
 感情なんてもういらないや。
 実隆を大好きだって心を、ロボットにしてくれないかなあ。
 いらないから。
 必要ないから。
「炭酸ジュースから炭酸を抜くぐらい簡単にできないかな。私の心ってきっと簡単にぷしゅって抜けていくと思うんだ」
 そして消えていくと思う。
 炭酸みたいに、沢山振れば泡になって感情が出ていってくれないかな。
「な、なんでそんなこと言うんだよ。凜々花の感情は、凜々花にしかない特別な感情だよ」
「だって、いらないんだもん」
 実隆の特別になれなかった私の未来なんて、ロボットの方が楽だよ。
 もう一度スマホを見る。
 未読になっているメッセージを恐る恐る開くと、簡単な一言。
『迎えに行くよ』
 膝から崩れ落ちた。
 むかえに……。
 スマホから顔を上げると、そこには実隆がくしゃくしゃな顔で私を見ていた。
 大好きなくしゃくしゃな笑顔ではなく、くしゃくしゃで泣きそうな顔。
「ロボットにしてくれないんだ?」
 床に置いていた炭酸ジュースを足の先で蹴飛ばすと、痛みはないのに涙がこみ上げてきた。
 返事を返そう。
 これで私の青春に終止符を打とう。
 最後に大好きな実隆の顔を見てから行こうとすると、彼は自分の足を睨み付けていた。

「私にはもう残された時間が少ないんだ」
 貴方の十回のループする今日とは交わらない。
 私の物語と貴方の物語は、たった今擦れ違って遮断される。
 大好きだったことすら伝えれば、誰かが傷つく。傷つく人しかいない私の話。
 私がロボットだったらきっと誰も傷つかなかったのに。
「お、俺は!」
 実隆が叫んだ瞬間、咥えていたアイスの棒が宙を舞った。
 当たり。
 運まで彼の味方をしている。
「俺は、俺なんかが凜々花の彼氏と噂されたら、君の価値が下がるかと思ったんだ! だから冷やかされたときに未来永劫友達といったが、ずっとずっと隣にいてもからかわれないように変わろうとしてきた!」
 唾まで飛ばしながら、それでも苦しそうに私を見る実隆は、だんだんと顔が真っ赤になっていった。
「・・・・・・なんで? 私なんて実隆に比べたらお馬鹿で、頭の良い会話なんてできないし。喋らなければ、なんて言われちゃうよ」
 ーー迎えに行くよ。
 そんな優しい言葉を吐く幼馴染みでさえ『君は笑って隣にいてくれればいい』と言っていた。
「ちがう、ちがうちがう」
 蹴って転がった炭酸ジュースを彼は持ち上げると、蓋を回した。
 勢いよく飛び出してくる炭酸。
 それを浴びながらジュースを持ち上げると、彼は自分の頭に炭酸を注いだ。
「俺は、ロボットになりたいと、心から消し去りたいと言う君の心ごと好きなんだ。好きだ。好きなんだ!」
 目に炭酸が染みたのか、片目を閉じたけれど、それでも私の顔を彼は見た。
 好き?
 私を好き?
 伝染したように私の頬が熱くなっていく。
 でも信じられない。
「俺はロボットコンテストでテレビの取材とか沢山来てたし、高校側からうちに来て欲しいって言われてたし、入学前からちょっとだけ有名で、皆が俺を見世物みたいに見ているのが分かった。特別扱いされて浮いている自覚もあった」
「そうだったっけ?」
 初めて会った一年の時、隣の席の実隆はそんな風に見えなかった。
「そう。凜々花だけだよ。誰も話しかけない俺に、君は鞄を豪快に机に置きながら『えー制服超でかいじゃん。よろしく』って笑ってくれたんだ」
「・・・・・・そうだったっけ?」
 ダボダボの学ランは覚えているけど、どんな会話したっけな。私は実隆の言葉を覚えているけど、自分が何を言ったか覚えてない。
「自覚なさそうだけど、凜々花は綺麗で目立ってたよ。俺なんて視線を向けてはいけないぐらい綺麗だった。色は白いし、顔は小さいし手足は長いし髪はサラサラだし同じ人間か最初疑問だった」
「そうなの? でも確かに喋らなかったら美人ってよく言われるかも」
「喋っても可愛いじゃないか! 可愛くて天真爛漫で、毒が無くて一緒に居ると心が癒やされていく。俺のロボットも馬鹿にしたり嘲笑せず『かっけー。必殺技とか出しそう』って興味もってくれたし」
 それは言った覚えがある。朝のロボット番組に出そうなロボットが、部室に置いてあったんだもん。介護ロボットだったらしいから爆笑したの覚えてる。
「俺は、凜々花の笑い声が好きだった。何にでも否定せず興味持って話しかけてる姿も好きだった。この額の十の数字は、俺が高校時代君を好きだと叫びたくなった回数と同じだった」
 それと同時に、君に救われた回数だ。
 苦しそうに真っ赤になりながらそう言われて、嬉しくて胸が熱くなる。
 それと同時に、悲しくて辛くて泣けてくる。
 本当に君の話と私の話は擦れ違っていく。
 大きく深呼吸すると、濡れた彼の前髪に触れた。
 零と書かれた文字は消えていなかった。
「私ね、家族からあんたは愛嬌しか武器がないねって言われてさ。でも可愛いから素敵な人から結婚申し込まれて幸せよって言われてきたの。ずうっと」
 擦り込まれるようにずっとずっと言われてた。
「結婚を申し込む? だって俺らまだ高校生でしょ」
「なんかね。私のおじいちゃんってすっごいイケメンだっただけど、貧乏だったから結婚反対されてたんだって。結局身分相応な人とお見合い結婚したらしいんだけど、本当に結婚したかった相手と私が生まれる前に和解して、それからずっと交流あってさ、むこうは超お金持ちでなんか御伽話にでてきそうな豪邸に住んでるの。貿易会社の社長なんだって」
 わざわざ隣の家に引っ越してくるぐらい。
 私以外は誰も違和感に気付かないの。家族ぐるみの付き合いで、お正月とか招かれて一緒にお祝いしたり。
「お隣のお兄さんが私を本当に可愛がってくれてたんだけど、なんかずっと違和感で、視線とかねっちょりしてて怖かったんだけど」
 でも向こうはお金持ち。
 おじいちゃんは貧乏だったから苦労していたし、親もそのおじいちゃんの姿を見てきた。
 大きくなったら結婚すれば良いねって最初は冗談だったのに、年々その言葉が形を帯びてきて、私の自由を奪っていった。
「・・・・・・そのお兄さんは優しいしブランド品沢山買ってくれようとするんだけど、一回だけ部屋に招かれた事があったのね」
 そうしたら世界中の綺麗な物で飾られた部屋だった。綺麗な女性の絵画、珍しい七色の光りを放つ宝石、装飾が珍しいアンティークの家具、一点物のシャンデリア。
「きっとお兄さんは私じゃなくて、その部屋で微笑む綺麗なお人形が欲しいんだろうなって。・・・・・・気付いたときにはもう遅かった」
 止まらない。
 気付いたら炭酸と甘い香りがする実隆に抱きついていた。
「遅かったんだよ。もう私、三年もこの高校に通っちゃったっ」
 親やお兄さんの言うとおりにするのが嫌だったの。
 あんたは頭が良くないから、愛嬌を武器に生きていきなさいって。
 それが苦しくて悲しくて、何か一つでも自分で決めて行動したかった。
「自由になりたくて、セーラー服が着たいからって嘘ついてこの高校を受験したんだよ。でも私、頭は良くないの。でもここって偏差値高い、有名私立高校なんでしょ」
 ロボット研究部とかお金かけてる部活がゴロゴロしてるもん。
 それを知らなくて、私はこの学校を自分の意思で決めて、馬鹿だったけど勉強を頑張って補欠だったけど入学できたと思っていた。
 自分の努力で入学して、自分の意思で実隆に惹かれて、片思いながらも充実した三年間を送る予定だった。
「何があったの?」
 恐る恐る聞き返してくれた実隆に、私は頑張って笑った。
「お兄さんが多額の寄付金をこの学校にして、私を入れてくれたんだって」
 私の努力じゃない。私は彼の手の上で転がされていたんだ。
「そうだよね。私って愛嬌だけだって散々言われてたのに。馬鹿だから補欠でも受かるわけ無かったのに」
 あの人に見初められた日から、私のルートなんてとっくに決まってた。回りもそれが良いって思ってる。
「今日ね、親と先生と三者面談でしょ。だからお兄さんが来るんだって。進路は彼の会社の受付嬢か可愛いお嫁さんか、私にも分からないんだけど」
 実隆の背中を抱き締めた指先に力を込めた。
 大好きって言ってくれてありがとう。
 返事をしない私を許してね。
「実隆は頭が良いからさ、開発してよ。私をロボットにしてくれる発明」
 お兄さんの横で微笑むだけのロボットになる私に変身させて。
 ・・・・・・楽しかったなあ。
 ズボンが大きすぎて、ベルトを緩めた瞬間に落ちて恥ずかしくなって逃げ出していく実隆。
 コンタクトレンズを自分で入れるのが怖くて、動画を見ながら練習する姿。
 赤点だらけで補習続きの私を、彼は小さなロボットのキーホルダーを作ってくれて、そのロボットにつけたカメラから一緒に答えを考えて助けてくれたし、勉強を教えてくれた。
 笑ってるだけで良いっていう回りとは違って、私の話を楽しそうに聞いてくれた。
 頑張って教えてくれたのに平均点いかなかった私を、自転車の後ろに乗せて先生から逃げながら励ましてくれた。
 私の青春は実隆が作ってくれたよ。
 でも楽しんじゃったから逃げられないよ。
 彼の多額の寄付金の上で、私は楽しんじゃったんだ。
「なるほど。だから九回判断を間違えた『今日』に彼は現れていたのか」
 何かに気付いた実隆は、抱きついていた私を剥がすとキスしそうなほどすれすれまで顔を近づけてきた。
「俺が何回も今日を繰り返すのは、今日しか凜々花を助けられないからなんだな」
「・・・・・・それは私には分からないけど、馬鹿な私だってもう逃げられないのは分かるよ」
 気付いていたら入学しなかったかもだし、こんなに自由奔放に過ごさなかった。
 今日まで話さないでいてくれたことは、恨みたいけど感謝もしたい。
「俺、頑張るからちょうだい」
「なにを?」
「返事。頑張るから返事を頂戴」
 手を握られた。
 離さないよって言ってるような、力強い実陸の指先が今は幸せだった。
「だって、彼はすっごい人前では優しいから皆彼の話を信じちゃうよ」
「俺はちがうでしょ」
 違うよ。
違うから好きになったよ。
でも彼に傷つけられる実陸は見たくない。
「凜々花の人生だよ。二学期から受験だし今しか決められないよ」
 俺が絶対に助ける。
 魔法の言葉のように一文字一文字彼の言葉が私の耳を満たしていく。
 返事はしたくなかったのに。
「学生の本分は勉強と青春だよ。これは、凜々花が俺に言っていた言葉でもあるからね」
『ロボットに夢中で全国コンテストで入賞しちゃう熱量格好いいやん。青春って感じ』
 言ってたね。何も知らなかった私は言ってた。
「まあいいや。俺はこの日を何度もやり直して、やっと今日未来に触れた。俺は今日、君を助けるために頑張っていたんだ」
 大丈夫だよって優しい声で言ってくれるから涙が止まらなかった。
「三者面談って次でしょ。俺もついていく。それに寄付金なら俺だってこの学校に沢山してるよ。俺がコンテストで優勝するためにって県が寄付しているはずだ。大丈夫。何も心配しなくていいよ」
 大丈夫。
 安っぽくて簡単な言葉なのに。
 彼はお金持ちの御曹司で、実陸はただのロボットコンテスト優勝者の学生なのに。
 なのに、私は彼の手を握り返していた。
「……言う。私も彼に話すよ。私は実陸が大好きなので家族やあなたの理想どうりのお人形にはなりませんって」
 いつの間にか沢山背が伸びていた彼の額に触れたくて、必死に背伸びをした。
 背伸びして汗だくになっていた実陸の狭い額に口づける。
 いつの間にか薄く消えかかっている『零』に唇を押し付けたんだ。
 今、私と彼の物語が合わさった。
 こっそり侵入した屋上で、炭酸まみれの大好きな彼。
 うるさいぐらい鳴り響く蝉の声を聞きながら、真っ赤な湯でタコみたいな実陸の顔を見て幸せで満たされた。
 前途多難な未来の中で、たったわずかな私と彼の受験前の青春。
 一番楽しい青春だけ摘まみ食い。
「未来が覆られなかったら、俺が破壊するロボット作って破壊してある」
「実陸のロボットが何かを攻撃するのは嫌だから、タイムスリップとか過去や未来に逃げれるロボットを開発してよ」
 ロボットを楽しそうに作る実陸も好きだしね。
「そうだね。無限大の可能性があるよね。絶対にその時は作るよ」
 そうだ。
 暗く希望もない未来だけじゃない。
 すでに両思いになっただけでも私の心は救われている。
「先に髪を洗って服を着替えようかな。べたべたする」
 へらりと彼が笑うので、私も笑う。
 私と彼の青春は、たった今始まったばかりだ。

  終。