閉店時間が近づいてきて、もう会えないのかも……そう思っていた時。



「今日アフター行こう。友達と、友達の担当も一緒に連れて」


耳元で囁かれた瞬間、心臓がドキドキした。



「大丈夫なの?忙しくないの?」



不安を隠せずに聞き返す私に、蒼依くんは軽く笑う。


「俺、この後暇だし、まだ飲み足りないんだよ。だから付き合って?」


営業の延長線上――そうわかっているのに。
それでも胸の鼓動は止まらない。
「好きになっちゃダメ」って、何度も言い聞かせてるのに……彼は簡単に私の心に入り込んでくる。



「よっしゃー!仕事終わりだ!どこ行くー?」


「あ、BARにしよ!」


明日香の元気な声に引っ張られて、4人で夜の街を歩く。


楽しそうに笑ってるあーちゃんが羨ましくて、私はついて行くことしか出来なかった。


隣に蒼依くんが座ってるだけで、緊張していた私はただグラスを見つめていた。



「美優ちゃん、お酒強い?」


「うーん、まあまあかな」


気まずそうに返すと、蒼依くんがイタズラっぽく笑う。



「無理すんなよ?酔ったら、俺が家まで送んなきゃだから」



冗談のはずなのに、真に受けてしまって胸が苦しくなる。





「2人で抜け出そうよ」


不意の一言に目を丸くすると、蒼依くんは私の手を引いて立ち上がった。


「大丈夫。あの2人、もう俺たちのこと気にしてないから」



いたずらっぽい笑顔に、心臓の音がまた大きくなる。




連れてこられたのは、公園の端にある小さなベンチ。


静かな夜風の中で、蒼依くんが隣に腰を下ろす。

「ねぇ、美優ちゃん」


「ん?」


急に真剣な目をして見つめられて、息を呑んだ。



「今日、来てくれて本当に嬉しかった」



その一言に、胸の奥がじんと熱くなる。
言葉を返したいのに、何も言えなくて……ただ見つめることしかできなかった。