キラキラした世界。


私とは無縁だと思っていた場所に、今日初めて足を踏み入れる。



「お姉さん、ホスト初めて?」



「名前なんて言うのー?」



「美優ちゃんかわいいから、俺のこと指名してよ!」


笑顔で接客してくる人たちが、次々と席に入れ替わる。


まるで流れるようなその光景が、不思議で、どこか現実じゃないみたいだった。


グラスを手にしても、胸は落ち着かない。
――私は桜井美優、24歳。会社を経営する女社長。
だけど恋も男性経験もゼロ。
そんな私を心配した唯一の友達、如月 明日香(きさらぎ あすか)に無理やり連れられて、人生初のホストクラブに挑戦中だった。


「美優って、ほんと堅いんだから。たまには遊ばないと!」


明日香の言葉を思い出して、小さく苦笑する。

心配ばかりかけてるな、私……。


ふと視線を上げると、まっすぐに私を見て笑う人がいた。


「初めまして。月城蒼依(つきしろ あおい)です」


柔らかい笑顔と、どこか安心させる声。

ただそれだけなのに、胸が少しだけ軽くなる。


「美優って言います。よろしくお願いします」


「美優ちゃん、初めてなんでしょ?俺が最高の夜にしてあげるから安心して任せて?」


胸をドキドキさせてる私の頭にあーちゃんの忠告がよぎる


――絶対に好きになっちゃダメだよ。このお店はホストと恋愛禁止だから。


分かってる。分かってるのに。

笑顔を向けられた瞬間、心臓の音が大きくなっていく。



「時間だー。俺、次行かなきゃ!美優、俺のこと指名してよ」


唐突な呼び捨てに、ドキッとして思わず返事してしまう。


「う、うん……」


30分後、スタッフがやってきて声をかける。


「気になったキャストはいましたか?最後に指名できますよ!」


私は迷わず、1枚の名刺を見つめていた。


「この人でお願いします」


「え、俺のこと指名?めちゃくちゃ嬉しい!」


弾けるような笑顔に、なぜか胸がじんと熱くなる。


せっかくなら喜ばせたい――


気づけば、私はメニュー表に手を伸ばしていた。


「私、これ飲みたい……」


そう言って指差したのは、50万円の高級シャンパン。


フロアがざわめき、シャンパンコールが響き渡る。
笑顔の蒼依くんがグラスを掲げてくれたその瞬間、世界が輝いて見えた。

――全ての“初めて”が、君に近づく合図になった。