キラキラした世界。
私とは無縁だと思っていた場所に、今日初めて足を踏み入れる。
「お姉さん、ホスト初めて?」
「名前なんて言うのー?」
「美優ちゃんかわいいから、俺のこと指名してよ!」
笑顔で接客してくる人たちが、次々と席に入れ替わる。
まるで流れるようなその光景が、不思議で、どこか現実じゃないみたいだった。
グラスを手にしても、胸は落ち着かない。
――私は桜井美優、24歳。会社を経営する女社長。
だけど恋も男性経験もゼロ。
そんな私を心配した唯一の友達、如月 明日香(きさらぎ あすか)に無理やり連れられて、人生初のホストクラブに挑戦中だった。
「美優って、ほんと堅いんだから。たまには遊ばないと!」
明日香の言葉を思い出して、小さく苦笑する。
心配ばかりかけてるな、私……。
ふと視線を上げると、まっすぐに私を見て笑う人がいた。
「初めまして。月城蒼依(つきしろ あおい)です」
柔らかい笑顔と、どこか安心させる声。
ただそれだけなのに、胸が少しだけ軽くなる。
「美優って言います。よろしくお願いします」
「美優ちゃん、初めてなんでしょ?俺が最高の夜にしてあげるから安心して任せて?」
胸をドキドキさせてる私の頭にあーちゃんの忠告がよぎる
――絶対に好きになっちゃダメだよ。このお店はホストと恋愛禁止だから。
分かってる。分かってるのに。
笑顔を向けられた瞬間、心臓の音が大きくなっていく。
*
「時間だー。俺、次行かなきゃ!美優、俺のこと指名してよ」
唐突な呼び捨てに、ドキッとして思わず返事してしまう。
「う、うん……」
30分後、スタッフがやってきて声をかける。
「気になったキャストはいましたか?最後に指名できますよ!」
私は迷わず、1枚の名刺を見つめていた。
「この人でお願いします」
「え、俺のこと指名?めちゃくちゃ嬉しい!」
弾けるような笑顔に、なぜか胸がじんと熱くなる。
せっかくなら喜ばせたい――
気づけば、私はメニュー表に手を伸ばしていた。
「私、これ飲みたい……」
そう言って指差したのは、50万円の高級シャンパン。
フロアがざわめき、シャンパンコールが響き渡る。
笑顔の蒼依くんがグラスを掲げてくれたその瞬間、世界が輝いて見えた。
――全ての“初めて”が、君に近づく合図になった。
