夜の公園、ふたりの姿。
 けいとに会えたのは久しぶりだった。

 けんたろうは、彼女の前で言葉につまる。

「……会いたかったよ、けいとさん」

 けいとも、彼に背を向けたまま、そっと答える。

「私も。でも、今は我慢しないといけないの」

 ほんのわずかな時間。
 それが今のふたりに許された精一杯だった。

 ――けいとさんは今や、Midnight Verdictのリーダー。昔のように自由に会うことなどできなくなった。
 そして自分も…けいとも知らないもうひとつの顔、「Synaptic Drive」のキーボーディストとして活動を始めている。

 けいとは、ふいにけんたろうの手をとり、その指に自分の指先をそっと重ねる。
 ほんの少し――夜風の中で伝わるぬくもりが、たまらなく愛しい。

「けんたろうちゃん。私も、あなたに触れていたい。…でも、今はだめなの。」

 けんたろうは何も言えず、ただ頷くだけ。

「私も簡単に会いに来られる立場じゃなくなったの。…苦しいけれど、仕方ないよ」

 けいとが微笑む。その瞳に宿る寂しさに、けんたろうの胸が締め付けられる。

(本当は、全部話したい。自分ももう、逃げ隠れせず、自分を貫くと決めてSynaptic Driveを始めたんだ、って。でも…今はまだ言えない)

 けいとが小声で囁く。

「私もずっと、けんたろうちゃんのこと考えてる。だから…負けないで」

「……うん」

「いつかまた、笑い合える日まで――頑張ろう。自分の場所で、全力で」

 髪をそっと撫でてくれるけいとの手が、たまらなく愛しい。

 けいとが立ち去り、けんたろうは夜の空を見上げる。
 すれ違う指先。その距離は切ないほど遠い。
 でも、愛しい人のため、自分を隠し、秘密を抱え、Synaptic Driveとして走り出すしかなかった。

(全部話せる日は、きっと来る。その日まで…絶対に負けない)

 ――。

 次の日の朝、けんたろうと同じ学校の生徒・梓もまた、偶然そのすれ違いを目撃してしまうが、「本当はそんな関係ではない」と思われたいけんたろうは、普段通りの顔で日常に戻る。
 誰にも言えない秘密を胸に、バンド、青春、そして恋が新たな形で動き出していた。