〈RX-Λ〉の戦闘記録は、軍上層部に送られた。その中には、通常ではありえない粒子の挙動と、ふたりの意識融合による空間干渉の痕跡が残されていた。

「ニュータイプ同士の共鳴が、機体の限界を超えた……」

だがその奇跡は、軍にとって“制御不能な力”でもあった。

アヤは、レイとの共鳴が深まるほど、彼の感情に触れるようになっていた。戦闘中だけでなく、眠っている時も、ふとした瞬間にも。

ある夜、彼女は夢を見る。

白い部屋。無機質な壁。小さなベッドに座る少年。彼は、窓の外を見ながら、誰かの名前を呼んでいた。

「……アヤ」

目覚めたアヤは、胸の奥が締めつけられるような感覚に襲われた。その夢は、彼女自身の記憶でもあった。

翌日、アヤはレイに問いかける。

「昔、白い部屋で暮らしていたこと……ある?」

レイは目を伏せた。

「ニュータイプ研究施設。俺は、そこで育てられた。感情を抑えろ、共鳴を制御しろって、毎日言われてた」

アヤは息を呑んだ。彼女もまた、幼い頃に短期間だけ、同じ施設にいたことがあった。母の研究に同行していた時期――その記憶は、ずっと曖昧だった。

「……あの時、窓の外を見てた少年。あなた、だったんだ」

レイは静かに頷いた。

「君の声だけが、俺を人間に戻してくれた。ずっと、探してた。あの時の“光”を」

ふたりの過去は、交差していた。偶然ではなく、運命として。

その夜、〈RX-Λ〉のコックピットでふたりは静かに座っていた。出撃ではない。ただ、星を見ていた。

「俺は、戦うために生まれたと思ってた。でも、君に出会って……違うって思えた」

「私も。あなたがいるから、私の心は“音”になる」

ふたりの手が、操縦桿の上で重なった。

その瞬間、〈RX-Λ〉の粒子が淡く輝いた。まるで、機体そのものがふたりの記憶に応えているかのように。

だがその光は、艦内の監視システムにも記録されていた。

「……この機体は、彼らの“感情”に反応している。危険だ」

軍の中で、ふたりの存在は“奇跡”から“脅威”へと変わり始めていた。