出撃の日。〈アステリオン〉の格納庫には緊張が漂っていた。

最新鋭モビルスーツ〈RX-Λ〉が、初めて実戦に投入される。パイロットはレイ・アルヴァ。彼は無言でスーツに身を包み、コックピットへと向かう。

アヤは、医療班の控室からその姿を見つめていた。胸の奥がざわめく。彼が遠ざかるほど、彼の心が近づいてくるような感覚。

「……レイ」

その名を呼んだ瞬間、彼の意識が、まるで返事をするように響いた。

『怖くない。君がいるから』

アヤは目を見開いた。彼の声が、直接心に届いた。距離も通信も超えて、ふたりの意識が繋がっていた。

〈RX-Λ〉が発進する。宇宙の闇を切り裂く白い軌道。敵は、反連邦勢力の小型艦隊。数は少ないが、機動力に優れたゲリラ型MSが多数。

レイは冷静に戦う。だが、敵の一機が彼の死角から急接近する。

その瞬間――

「右後方!来るよ!」

アヤの声が、彼の意識に響いた。レイは反射的に機体を旋回。ビームサーベルが敵機を切り裂く。

『……君が見えてるのか?』

『わからない。でも、感じるの。あなたの鼓動が』

戦闘は続く。だが、レイの動きは次第に変わっていく。まるで、ふたりで操縦しているかのような滑らかさ。〈RX-Λ〉の反応速度が、通常の限界を超えていた。

艦内では、整備班が騒然としていた。

「この反応……ニュータイプ同士の共鳴か?」

「いや、それ以上だ。機体が“歌って”いる……」

戦闘終了後、レイは無傷で帰還する。だが、彼の表情はいつもと違っていた。

静かに、優しく、微笑んでいた。

「君の声が、俺を導いてくれた。ありがとう、アヤ」

アヤは言葉を返せなかった。ただ、涙が頬を伝っていた。

それは、戦場で交わされた、最初の“愛の残響”だった。