〈RX-Λ〉が発進したその夜、宇宙は静かだった。

ふたりが向かったのは、連邦・反連邦・〈エクリプス〉の三勢力が睨み合う宙域。そこでは、情報遮断と粒子干渉によって、戦闘が一時的に停止していた。

「この空間は、まるで……誰かが“待ってる”みたい」

アヤの言葉に、レイは頷く。

「俺たちが、何を選ぶか。それを、世界が見てる」

〈RX-Λ〉の粒子が静かに広がる。ふたりの共鳴は、戦場全体に“音”のような波を放っていた。

その波に反応するように、各勢力の通信が再開される。

連邦軍:「〈RX-Λ〉が干渉している。撃墜せよ」

反連邦:「あの機体は脅威だ。排除しろ」

〈エクリプス〉:「彼らは裏切った。沈黙させろ」

三方向から、攻撃命令が下る。

だが、ふたりは動かなかった。

「レイ……私たち、どうすればいい?」

「君がいるなら、俺は迷わない。俺たちの“声”を、届けよう」

〈RX-Λ〉が動き出す。だが、攻撃ではない。

粒子を放ち、戦場全体に“記憶”を送信する。

それは、過去のニュータイプたちの想い。戦場で散った者たちの声。守りたかった人の名前。愛した人の記憶。

そのすべてが、粒子に乗って広がっていく。

敵機のパイロットたちは、操縦を止めた。

「……この声は、誰?」

「俺の兄だ。昔、ニュータイプだった」

「私の母の記憶が……この機体に?」

戦場が、静かになった。

ふたりの共鳴は、争いを止めたのだった。

だが、その代償は大きかった。

〈RX-Λ〉の粒子制御が限界を超え、機体が崩壊を始める。

「アヤ、脱出を――!」

「……いいの。この“光”は、私たちのものだから」

ふたりは、最後までコックピットに残った。

手を重ね、目を閉じる。

「君と出会えてよかった」

「私も。あなたがいたから、生きてこれた」

〈RX-Λ〉が、星屑のように散っていく。

その光は、宇宙を包み、静かに消えた。

そして――

数年後。

コロニー〈リュミエール〉の空に、新型ガンダムが展示されていた。

その名は〈RX-Λ・Re〉。

機体の胸部には、ふたりの名前が刻まれていた。

「この機体は、争いを止めた“声”の記録です」

子どもたちが見上げる中、風が吹く。

その風の中に、微かに響く“心の音”。

それは、星屑より届いた――ふたりの、魂の共鳴だった。