〈エクリプス〉の作戦決行日が近づいていた。

シオン・グレイは、アヤとレイに最後の確認を求める。

「君たちの共鳴粒子は、衛星網の通信帯域に干渉できる。この作戦が成功すれば、連邦の情報支配は崩れる。世界は変わる」

だが、ふたりの表情は曇っていた。

「その“変化”に、誰かの命が巻き込まれるなら……それは、希望じゃない」

レイの言葉に、シオンは冷たく微笑む。

「理想には犠牲が必要だ。君たちが“光”であるなら、闇を照らす責任がある」

その夜、アヤは〈RX-Λ〉のコックピットにひとりで座っていた。

彼女の手が操縦桿に触れた瞬間、機体が微かに震える。

『君は、まだ隠している。君の“光”は、もっと深い場所にある』

それは、機体に刻まれた過去の記憶――かつてのパイロットたちの声だった。

アヤは目を閉じる。心の奥に沈んでいた記憶が、静かに浮かび上がる。

幼い頃、研究施設でレイと出会った日。彼の瞳に映った“光”が、自分の中に残っていた。

「私は……誰かの希望になりたかった。でも、怖かった。誰かを傷つけるかもしれないって」

その瞬間、〈RX-Λ〉の粒子が激しく輝く。

基地の警報が鳴る。機体が制御不能なほどの粒子放出を始めたのだ。

レイが駆けつける。

「アヤ……君の“光”が、目覚めたんだ」

ふたりがコックピットに並んだ瞬間、機体は静かに安定する。

だが、その粒子は、基地全体に影響を与えていた。

通信機器が一時的に沈黙し、〈エクリプス〉の作戦が中断される。

シオンは激怒する。

「君たちは、力を持ちながら、それを拒むのか?」

アヤは静かに言った。

「力は、誰かを支配するためにあるんじゃない。繋がるためにあるの。だから私は……あなたの作戦には加われない」

レイもまた、彼女の隣で言葉を重ねる。

「俺たちは、戦うために生まれたんじゃない。君と出会うために、生きてきた」

その言葉に、基地の空気が変わる。

ミラをはじめとする若いニュータイプたちが、ふたりの言葉に共鳴し始める。

〈エクリプス〉の中で、理想が揺らぎ始めていた。

そして、ふたりは決意する。

「この機体と、この心で、未来を選びに行こう」

〈RX-Λ〉が再び発進する。

その軌道は、赤でも青でもない――淡い金色の粒子をまとった、“希望の軌道”だった。