シオン─貴方が心に灯してくれた光の花─


“苺香”と出逢ったのは、大好きなあの場所に久々に立ち寄った時だった。


一人の女の子が鉄格子から身を乗り出していて、その下には沢山の車が行き交う高速道路。


その光景を見て“あっ、この子は身を投げる気だ!”と、早とちりをした僕…。


「ちょっと君!何してるの!?」

「へっ?」

「ご両親が大切に育んでくれた命なんだよ?!大事にしないとダメでしょ!?」

「えっ、ぁ、ぁ、あの!…ど、ど、どういうことですか?!」

「自ら命を断とうとするなんて、君!どうかしてるよ!!」

「私、そ、そ、そんなことしようとしてません…!」

「えっ…じゃあ、なんで…」

「へっ?」

「フェンスに足を掛けて、前に身を乗り出してるじゃん…」

「あっ…あの、こ、これは、飛び降りようとしていたわけじゃなくて……こ、こ、この、体勢で見る景色や吸った時の空気が、とっても良いからで……」


やばい…。
またやってしまった…。
お得意の早とちり。


「すみません!僕の勘違いでした!」


そう言って、僕が勢いよく頭を下げると彼女が呟いた。


「で、でも、昔は…やろうと思ってました…」


思わず口から溢れてしまったのであろう一言に慌てた様子を見せた。


「あっ、いや、あの!こ、こ、こちらこそ、ま、紛らわしい、こ、こ、行動を取って、す、す、…!」

「あっ、いや!勘違いなら良かったです…!」


そうは言ったものの、彼女のあの一言がすごく引っかかって仕方がなかった。だから、勇気を振り絞って言ってみた。


「あの!もし良ければ、ベンチに座ってお話ししませんか?」


彼女は俯いて無言ではあったが、素直に座ってくれた。


「おいくつですか?」

「じゅ、十四歳で中二です。」

「えっ!?僕と同い年!!」

「そ、そうなんですか!?…あっ、あの、お名前は?」

「僕は、しおん!漢字は花の名前と一緒!」

「素敵な名前……あっ、私は苺の香りで、まいかです。」

「君にピッタリの可愛い名前だね!」

「へっ…そ、それ、ほ、ほんとに言ってますか?!」

「同い年って分かったことだし、敬語で話すのやめない?」

「あっ…はい…!いや、うん。」

「それで、さっきのはほんとだよ?何で嘘付かないといけないの?」

「あっ、えっ…そ、その、素直に嬉しい…!」

「…変なの〜!(笑)」


この日から調子の良い日は毎日、見晴らし台に通うようになった。

そしてある日、彼女から聞かれたんだ。


「そう言えば、どこの中学校に通ってるの?」


正直、答えに迷ったけれど、素直に言うことにした。


「僕、実は公立中学校行ってないんだよね…」

「へぇ、そうなんだ。じゃ、じゃあ、どこの私立の中学校に通ってるの?」


この話をすると、いつもは空気が重くなる。


苺香はどんな顔をするだろう。


────そう思うだけで、心臓がぎゅっと縮こまる。


だけど、そっと深呼吸をし、勇気を出して言ってみた。


「……ううん、僕、中学校に行かずに普段は院内学級に通ってるんだ。僕の身体には心臓という名の時限爆弾があるからさ(笑)」

「…てことは、普段は入院してるの?」


彼女の声はいつもに増して優しくて穏やかだった。
重たかったはずの心が少し和らいだ気がする。


「そうだよ…今は一時帰宅が許されて、堪能しているところ…」

「そっか…ちなみにどこの病院?」

「…希望(のぞみ)(さと)病院。」

「じゃ、じゃあ、また入院することになっちゃったら、こん、今度は私が毎日、その病院に会いに行っても良い?」

「えっ…!?」

「あっ、やっぱり迷惑だよね…」

「いや、むしろ大歓迎!!マジで嬉しい!ありがと〜!!」

「…痛いよ!強すぎ!!笑」


嬉しすぎて思わず、強めのハグをしてしまった。

だって、正直に言ってこの話をしたら引かれると思っていたから。

でも、彼女は引くどころか僕の元に会いに来てくれると言ってくれた。


その優しさにじんわり胸が熱くなった。




出逢った時から、苺香は素敵な人だった。