シオン─貴方が心に灯してくれた光の花─


廊下で誰かとすれ違う度、足を引っ掛けられて肩をぶつけられて毎回転ぶ…。

空気として扱われているはずなのに、壁にぶつかりながら歩いていても必ず近寄って来て毎回やられる…。


「ごめんなさいは?」

「空気のくせして歩いて、怪我をさせて申し訳ございませんは?」


と襟元を掴まれて壁に押し付けられながら言われる。

当然のことながら声は全く出ない。そして、口も開けないから俯いて黙り込む。


「またお得意の(だんま)りですか?いいよな〜!お気楽で〜!」

「いやいや、それにしても謝れよ〜!あ、空気だから口ねぇのか…」

「空気は良いよな〜!黙っているだけで謝らなくて良いもんな〜!」

鳩尾(みぞおち)目掛けて思いっきり蹴りを入れられる。数人がかりで押さえつけられながら楽しそうに。それもサッカーボールキックでとても痛い…。

ブラウスの襟を掴んでいた手は離され、両頬を摘まれ『生きてる価値ないから、早く死ね』『生きてて恥ずかしいから、早くこの世から消え失せろ』と言われて壁に突き飛ばされるのがお決まり。

その後解放され、ヨロヨロっと立ち上がると、周りで見ているだけの人たちに腫れ物に触れるような憐れみに満ちた目で見られる。

そして助けてくれるわけでもないのに、『ヤバいね』『怖いね』『気を付けないとね』と言いながら去って行く。
そうやって一部始終を見ていたはずなのに、我関せずで何も知れませんって顔をしている人たちが一番酷いと思う。



毎回、襟元を掴まれて壁に押さえ付けられている時に思っていることがある。

“やっぱり私、前世で何か悪いことをしたのかも知れない”

何個もの犯罪を犯した囚人、もしくは何百人もの命を奪った殺人犯の死刑囚。

そしたら、こんなことをされても仕方がない。
生きていたらいけない人だから。
死んだ方が良いよね。
だって、皆んなからしたら生きる価値のない人だから。



先生たちが絶対にいないところでしかやらないのが、一番タチ悪い。

私にわざとぶつかって、タイミング良く先生が来てしまった時には『ごめん!怪我ない?!大丈夫?!』と心にも思ってもいないであろうことを聞かれる。

私にしか聞こえないように舌打ちをした後、何事がなかったかのように笑顔を見せながら歩き出す姿を見る度、吐き気を覚える。息の仕方も分からなくなる。 

でもぼーっとしていると、先生に『大丈夫か?』と聞かれてしまう。

バレたらもっと酷くなる。

それはとても怖い。考えただけでも、全身に鳥肌が立つ。身体が震える。

だから、私は頷きサッと立ち上がって何事もなかったかのように歩き始める。

身体が固まってしまい動けなくて聞かれてしまうこともある。その時は口角を上げて首を縦に動かし、足早に立ち去る。

私のいけないところ全面に出る瞬間。




教育相談の時には毎回、担任の先生に“友達いるか?”と冗談染みた感じで聞かれる。

そして私はお得意の嘘を飄々と付く。

「もちろんいます!!」

そう言ってニコッと笑ってみせる。


何でそんなに虚しい嘘を付くのかって?

それは簡単。自分の身を守るため。

生きる価値がないって言われているのに、何でそんなことをするのか意味が分からないだろう。

でも、私の命は私だけの命ではないから。両親がたくさんの愛情を注いでくれて、この歳まで大切に育んでくれた命でもあるから。

そんなことを言いながらも、別にどうでもいいとも思っている。自分のことは大切に思っていないから、何が起こってもどうでも良い。
どうなったって家族にさえ迷惑が掛からなければ、何でも良い。私の命は惜しくもない。

矛盾しているのは分かってる…。
でも、もう、人間関係なんてどうでもいい。
だって何にも信じられないんだもん。
だから、柚ちゃんと家族以外は要らない。




だから、これからも“たすけて”と言わずに誰かを頼らずに生きていくしかない。