シオン─貴方が心に灯してくれた光の花─

ある日、高い所から身を投げ出して死のうとした。


高台から見下ろした世界は、全ての色を失って見えた。胸の奥の鼓動がいつもより速くて少しだけ気持ち悪かった。


だけど、毎日色々な悪口を言われながら生きるのは辛い。悲しい。そして、とてつもなく苦しい。


でも、死んだら苦しくない。

悲しくもない。

辛くもない。

やっと、楽になれる。

この誰にも言えない“悲しみ”や“苦しみ”から解放される。




そう思ったら、体が勝手に身を乗り出していた。








だが、あともう少しというところで、私の中に住みつく臆病者が声を上げた。


『酔生夢死、あなたはそれで良いの?』

『夢も叶えられないまま、自らの身を投げ出しても良いの?後悔しない??』


たしかに、“酔生夢死”それだけは嫌だ。
かと言って、この世に名を成すつもりはない。



それでも、夢は叶えたい────




私の夢は幼稚園教諭や保育士になること。


小さな子がずっと好きだ。純粋で嘘のないあの無邪気な笑顔が大好きだ。


それに、憧れの先生もいる。
その先生(ひと)は雲の上の存在。
今のままでは到底追いつけないくらい、遠いところで待っている。


でも、いつかは追いついてみたい。これからも、追いかけ続けたい。


憧れの先生の笑顔を思い出した時、胸の奥が少しだけ温かくなって、小さな子どもたちの笑顔が頭に浮かんだ。


些細なことかも知れないが、こんなことでは、まだ終われないと思えた。




……確かに、この世を去る時には悔いなく逝きたい。




身を乗り出しているなんて、なんてバカバカしいかとをしようとしたのだろう…。何であんな人たちのために私の未来を棒に振ろうとしていたのだろう…。








当時の私はそう思って、どこかから身を投げ出したいという気持ちをおさえ生きてきた。




今となっては、“あの時、思い留まっていて良かった!”とすら思う。




そして、今になって思うのだ。


実は私の中に住みつく臆病者は、あの時の私にとって“一番の味方”だったのかもしれない。