子供みたいな発想だったかな。でも、天真の片方の翼はきっと天真自身のもので、もう片方は亡くなった千尋さんに捧げるつもりなんだ。だからその部分を私が補いたい。
「彩未、好き。そう言う意味ならタトゥーもすっげぇ嬉しい」唐突に天真の口づけが落ちてきて私は目を閉じた。
「私もだよ」
私たちはその晩久しぶりに体を重ねた。天真の体は相変わらずあったかくて心地よくて―――
天使に体温があったらこんな風なのかな。
――――――
――
「ほれ、偽造免許証だ。まさか本当に潜入するとはね」と後日西園寺刑事さんが家に訪ねてきて、天真と私の分の偽造免許証を渡してくれた。
この日は雨が降っていた。けれど天真は西園寺刑事さんが来るって知ってたのか、いつものように窓枠でタバコを咥えてウィスキーを飲むことはなかった。それとも新しい一歩を踏み出すため、なのかな。
「あの、念のために聞きますけどこれって違法ですよね……」
そもそも私、免許証持ってないし。名前も本拠地も生年月日も全て嘘の情報が掛かれている免許証をまじまじ見て、西園寺刑事さんを見上げると西園寺刑事さんはアメリカ人がするような大げさなジェスチャーで肩をすくめてみせた。今度この人にドーナツの差し入れでもしてみましょうか。
天真は偽造された免許証を人差し指と中指で挟むと
「あそこは男同伴で入れない。俺は”A”のボーイとして先に潜入する。幸い夜しか活動してない場所だからな、病院の方に支障はない。
彩未が囮になって男たちに何かされそうになったら助ける。ついでに西園寺たち刑事たちにも待機させておくから」
作戦はごくシンプルなものだった。
「で?決行はいつにする?」
「そうだな、夜に人が集まりやすい来週の土曜日の夜とかどうだ?」
なるほど、変に平日を狙うより疑われなさそうだし人が多く集まるだろう。
「じゃ、決まりだな」西園寺刑事さんが腕を組み「じゃぁ私が下まで」見送るのが最近の定番だ。
照明を落とした薄暗がりの待合室はいくら毎日見てるからってやっぱ気分のいいものではない。しかもさっきより激しくなった雨が建物を打ち付ける音が相まって普段よりちょっと異様な空気を醸し出している。
西園寺刑事さんを送り出したらすぐに上に上がろうと考えていると
先を歩く西園寺刑事さんが振り返った。
「まさか、天真が彩未さんを向かわせるとは」
「天真が言い出したことじゃないんです、私が強引に」
「分かってるよ。天真は愛する人を危険に放り込む人間じゃないってこと」
愛する―――人。
「複雑なんだと思う。彩未さんを危険にさらしたくないが、千尋のこと忘れたい、たぶんあいつの中でごちゃまぜになってるんだと思う」
「忘れることなんて―――たぶんできないだろうし、求めてないと思います。でもこれを機に想い出に仕舞いこめるかもしれない。新しい未来の為に」
私が僅かに目を伏せて小さく言うと
「だとよ。お前、やっぱ女見る目あるわ」
え――――?



