「そういう理由なら教えてあげたいんですが……私、ホントに知らない…」

はぁ…ここまでか。天真は由佳が連れ去られそうになったのがあまりにも早かったから莉里ちゃんは何か知ってるって言ってたけど。

そのときだった。

「あれ、莉里ちゃん?昼休憩?」

あれ…?この声。

「加納くん?」

私が顔を上げるとコートを着込んでビジネスバッグを持った見知った顔がきょとんとした。

「え……あぁ!!彩未さん!?ぅわぁ、びっくり!すっごいイメチェンだね。すっげぇ美人になって。由佳が居なかったら口説いてたかも」と加納くんは笑う。加納くん、笑えないジョーク。

「もう、由佳に言いつけるよ」と唇を尖らせると

「はは、冗談だって。ここ冷えるから風邪ひかないように気を付けてね。じゃ、俺会社戻るね」と加納くんは爽やかに手を振ってビルに向かっていった。

結局情報も手に入らなかったし、私も体が冷えてきた。こんな所で風邪なんてひいてる場合じゃない。

「ごめんね呼び出したりして。じゃぁ私はここで」と立ち上がろうとすると向かい側に座った莉里ちゃんが

「あの…!」と目を上げた。

「”A”の場所知らないとか言ってすみませんでした。直接知ってるわけじゃないけど、HPがあるから住所もそこに乗ってるかも。でもあそこは完全紹介制ですよ、どうやって行くんですか?」

「由佳が”A”のカード要らないって言うから私がもらうことにしたの。へぇHPね」

「連絡先教えてくれたら後でURL送ります。けど絶対私が教えたってことは言わないでくださいね」

と莉里ちゃんはしつこいぐらい念を押した。

「分かってるって。絶対莉里ちゃんに迷惑かけないから」

と、こちらも念を押して、私たちは連絡先を交換し合った。