由佳のマンションはこの辺の物件では中の中と言うところで、駐車場がじゃり駐だった。
「駐車に失敗したんかな~、飛び石がリアに飛んでてさー、テンション下がったワ」と天真はいつも通り。
「大した車じゃないんだからいいじゃない」と私もいつも通り―――を装えたかな……
天真の車は国内では割と人気な国産車のミニバン。そりゃ私は買える値段じゃないけれど車の相場としては中の中。前に一度聞いた。儲かってるんだから外車にすればいいのに、って。そしたら天真はこれが気に入っている、気に入っているものを俺は早々手放さないと言い放ってったっけ。
この車も―――千尋さんとの想い出が詰まってるから手放せないの?
「大した車じゃないってひっでぇな。これでも7年は使ってる愛車なんだよ」と天真が少し背の高いミニバンの天井を軽くたたきながら唇を尖らせた。その手つきは私の頭をいつもぽんぽんしてくれる手つきと同じものだった。
天真―――好きだよ。そうゆう優しいとこも全部、
「小さいことを気にする男は嫌いよ」と笑いかけると、天真は苦笑い。
そうして二人して車に乗り込んだ。
本来なら千尋さんが座っている場所に私が居る。西園寺刑事さんは私を千尋さんに重ねてないって言ったけど本当なのかな。
車が発車して五分経ったとき―――私は切り出した。
「私、天真と結婚してもいいよ」
ちょうど赤信号で停まっていた車、右手をハンドルに乗せたままの天真が私の方を見て
「え―――?」と目を開いた。「それはマジ……」
「ただし、条件がある」と私が真剣な顔で言うと
「また条件?お前好きだなー。家事は分担制とか?悪いけど俺できるのは掃除と洗濯だけだぞ?」
天真は軽く笑った。
「違う。”A”を完全に潰す」
私が言うと、天真は口を半開きにしたまま私を凝視してきた。
「突然何を言い出すんだよ。あの問題なら解決したろ?」
「してない!」
私が強く言って膝を叩くと天真がちょっと驚いたように目を開いたまま、やはり私の方を見ていた。
「天真は忘れたくないんだよ、”千尋”さんのこと」
はぁ
天真は大きくため息を吐きハンドルに頭を乗せると
「だから千尋にはフられたって言ったろ?大体”A”と千尋のこと何の関係がある」
「西園寺刑事さんから全部聞いたんだよ。千尋さんもやはり”A”の被害者だって」
ちっ!
天真は大きく舌打ちして
「西園寺、彩未に余計なこと言いやがって」今まであまり聞かないぐらいの怖い声で唸る天真。
こ、怖い……けど怯んじゃダメ。
「余計なこと?大事なことだよ!千尋さんが”A”に巻き込まれて亡くなったんだよ!天真はそれをまだ忘れられずにいる」
「忘れたさ!」
天真はガンっと大きな音を立ててハンドルの側面を叩いた。
思わずびくりと肩が揺れると
「いや、彩未のせいじゃない、悪い、大きな声を出して」
「いいよ、怒っても。悲しんでも。
千尋さんのこと忘れなくても―――
それでも私は天真と結婚する。絶対に。
だから”A”を潰す」



