それで天真は雨の日、窓の外を眺めて―――きっと亡くなった千尋さんのこと思い出してたんだ。
「あそこは完全会員制だ。誰かが千尋を誘ったに違いないが、その”誰か”が全く浮上せず、事件は暗礁に乗り上げた」
なるほど、天真や西園寺刑事さんは”A”を知らないフリしてたけど、知らなかったんじゃなくて忘れたかったんだ。
「まさか五年経った今も”A”が存在していたことに我々は驚いたが」
さらに西園寺刑事さんは続けた。
「奴らは足がつかないよう拠点を次々と変える。だから我々も手をこまねいているわけだが」
西園寺刑事さんがミネラルウォーターの入ったグラスをぐっと握る。それが彼の怒りのように思えた。
天真――――……天真はもっと悲しかったよね、苦しかったよね。
なのに私、勝手に千尋さんに嫉妬して。
酷い女だ。
私は天真が想ってくれるきれいな女じゃない。
嫉妬と憎しみでどうにかなりそうだった。
でも、きっと天真のことだからそんな私のことも見抜いていたに違いない。それなのに結婚しようとか言ってくれて
私、嬉しかったんだよぉ…
私は顔を覆った。
涙が溢れて止まらない。
「でも―――天真は乗り越えたみたいだ。麻生さんと言う存在が千尋を超えた。俺が知ってる限り天真は嘘を着くような男じゃない。勘違いしないでほしいのだが、天真は千尋をあなたに重ねていることもないから安心して。だって千尋とあなたは性格が正反対だから。顔も似てないし。
あなたをプロポーズしたのも軽い気持ちや嘘じゃない、それだけは信じてやってくれないか」
西園寺刑事さんが眉を寄せて私を見てくる。
信じる――――信じてる――――
天真。
千尋さんと築けなかった幸せ、私が与えてあげること、できるのかな。



