次の日の夜、私は由佳におうちに呼ばれてると言って出かける支度をした。先月出たお給料で少しだけ自分の服を新調した。前のダサい自分が絶対選ばないような服を。それに着替えていると
「送ってやりたいけど、まだやること残ってるから、これで行ってこい」と一万円札を手渡される。
「え?」
「タクシー代だ。夜は何かと危ないからな。帰りは迎えに行く」
迎えにって……やっぱ天真って過保護だよね。苦笑しながらそれでもありがたくそれを受け取った。
髪型を変えて、化粧をするようになったからか、最近男の人の視線が痛いのは事実だった。一応天真に教えてもらった護身術で何とかできる気がしたけれど知坂のときはたまたまうまくいっただけかもしれないし、相手が大人数だったら適わないだろうし。
由佳の家に行く前、閉店ギリギリだった由佳の好きなケーキ屋さんでカットケーキを三つ用意して持って行った。
由佳のマンションの前には相変わらず一人の刑事さんが後ろで手を組み突っ立っていた。
由佳は帰ったばかりなのか、グレーのスーツジャケットに白いティアードスカートだった。加納くんはやっぱりまだ帰っていない。
「ごめんね、私も帰ったばかりで。せっかく彩未が来てくれるって分かってたから何か作ろうと思ってスーパー寄ろうとしたら刑事さんから早く帰るよう言われて」
「まだ警護ついてるんだね」
「うん、もう怪しい感じの車や人を見ない気がするけど、刑事さんたちも大変だね」
「そのまましばらくつけておいてもらった方がいいいよ、”A”の問題だって解決してないでしょ。そだ。あの莉里って子と一緒に働いてるんでしょ?キマヅクない?」
「うーん、それが……私が復職したら莉里ちゃん総務部に移動してて。今は殆ど喋らないんだよね」
由佳は確か広報とか言ってた気がする。
何で異動なんて。
「よく分かんないけど私の事件があって顔合わせづらくなっちゃったんじゃない?あの子ああ見えて責任感強いから。色々考えちゃうんじゃない?」
由佳はちょっと寂しそうに笑っていたが
責任感?そんな感じには見えなかったけどな…
「今日はピザでも取る?」と由佳はすぐに気を持ち直したのかスマホをふらふらさせていた。
「うん」
私の意識もすぐに莉里ちゃんから逸れた。
お昼から何も食べてないからお腹もぺこぺこだし。



