「「藤堂総合病院の副理事長!!?」」
知坂と浮気女の声が揃った。
「なん!どこで知り合ったんだよ」と知坂が天真ではなく私に問いかける。別に私たちのなれそめなんてどーだっていいじゃない、と言う意味の視線を知坂に送っていると
「ちょうど二週間前ぐらいだったかな~、交通事故っても軽い怪我だったけど俺の病院にボストンバッグ一つもった女性が運ばれてきてね、そこで俺が一目ぼれしたの」
「ね、ねぇ二週間前って言ったら知坂がこの女を追いだしたあの日じゃない?」と浮気女がちょっと慌てたように小声で知坂を揺する。「警察とか行かれたら…」
「俺は警察に行くことを勧めたんだけど、彩未が頑なに断るから」
いや、病院にも行ってないし警察を呼ぶこともしなかったけど……やっぱ天真役者だ。
知坂と浮気女は二人してほっとしたようだ。
「で、行くとこないって言うから俺んちへ連れてったってワケ。他に聞きたいことはおじょーさん」と天真が頬杖をついてどこか楽しそうに浮気女に聞いている。浮気女はほんの少し頬を赤らめた。これは知坂が居ない間天真に乗り換えようって言う寸法?「ああ、最初はネカフェへ行こうとしてたんだっけ。そんな危ない所に彩未を一人で泊まらせるのは危険だろ?」
知坂、今頃捨てた女がいかに惜しかったか思い知るがいいわ。
私は口に笑みを浮かべワインを一口。天真が選んでくれた赤ワインはなるほどいつものやっすいワインとやはり味も桁違いに美味しかった。
「そう言えば知坂、格闘技好きじゃなかった?まだ見てるの?あの…エクスーシ何とかって言う格闘家」
私がさらりと言うと、隣で天真が飲んでいた赤ワインを喉に詰まらせたのか激しく咳き込んでいる。
「ああ、エクスーシアイ?好きだけど最近動画が上がってこないんだよな」と知坂はまだ私たちの関係が壊れる前と同じ感じで気軽に話しかけてくる。
「そう」私は小さく微笑んで小さく頷いた。
浮気女は知坂が格闘技にハマっていることを知らないのか「ねぇ何の話?」と一人キョロキョロ。一人置いて行かれた感満載で、私はくすりとほほ笑むと浮気女がまた私を睨んできた。
知坂が格闘技好きなこと、あなた知らなかったの?と今度は私がマウントを取る番……
だったのに
「おい彩未、ちょっと」と天真が私の腕を取り「え?何?」と怪訝そうな顔をしている私を私のバッグと一緒に強引に立たせて(もしかしてここに来て帰るって言い出すんじゃ?と思ったが)「ごめん、席を外す」と二人に言って店の奥にあるお手洗いへと連れていく。
「ちょっと何よ」とちょっとだけ目を上げると
「何ヨ、はこっちの台詞だ!お前、俺がエクスーシアイってこと知ってたのか」
「うん」あっさりと認めると
「はぁ~」と天真は両手で顔を覆い、その場にしゃがみこみ
「何よ、そんなに知られたくないことだったの。大体格闘技見てる人間だったらあの片翼の翼のタトゥーで分かるよ」と腕を組んで天真を見下ろすと
「そりゃそうだろうが。恥ずかしすぎる」
恥ずかしい……?それが理由?
「正体バレたから困ったんじゃなくて?」
「別に困りゃしねーよ、ただ恥ずかしい」
ぷっ
何故だか急に笑いがこみ上げてきた。
恥ずかしいって…!
「そりゃそーだろ!あんな変なマスク被って闘う俺……イメージが…」
イメージ問題?大丈夫、それならもう最初から十分変なイメージがついてたから、とは言えないけどね。



