「これも何かのご縁だし、ご一緒させていただいても?」と私が知坂に笑いかけると
「あ、うん……えっと……てか彩未すっげぇきれいになったな。俺の知ってるお前とはまるで別人だ」と知坂の顔がちょっと赤くなったのが分かった。
あんたにもう『お前』とか呼ばれたくないのよ。名前で呼ばれるのはもっと嫌だけどね。
「ちょっとぉ」と向かいの席で女が頬を膨らませている。
「ごめん、ごめん」と知坂がみっともなく浮気女に謝っているが、その姿を見るのは酷く滑稽だった。だって視線は私にくぎ付けだもの。
天真が素早く私の背後に回り、椅子を引いた。
「ありがと」
私は軽く手を上げ天真に微笑みかけた。
『いいか?お前は誰が見たって最高級の女だ。だから堂々としろよ?男にされるサービスは全て当たり前のように振る舞え』と店に入る前に天真に教えられた言葉を思い出し私はそれを実行した。
出遅れた、と思ったのか少しだけ知坂が面白くなさそうに顔を歪める。そして同じように知坂の浮気相手もこちらをちょっと睨んでいた。
もう私は知坂に捨てられたのよ。怖かないのよ、そんな視線。
私の前に知坂、知坂の隣に女が移動してきて私の隣は天真と言うフォーメーションができた。
「彩未、どうする?お前の好きなワインあるぞ」と天真がメニュー表を見せてくる。天真……私の好きなっていうかワインなんてやっすいのしか飲んだことないから全然メーカーとか分かんないけど…てか天真役者だな!!
「そうね、それにするわ」私は右手の人差し指を曲げるとワザとらしく口元をなぞった。
ちらりと知坂を見ると知坂の喉元がごくりと揺れたのが分かった。
「おつまみはあなたに任せる、好きなの食べて」とメニュー表を天真に渡すと「OK」とこれまたスマートにメニュー表を受け取り、軽く手を上げると近くのボーイを呼び寄せた。それはとてもスマートな仕草だった。慣れてる感もある。
天真……いつも変なヤツだけど、ちゃんとやればできるんだね!!
「”二人とも”元気だった?」私が失恋なんてちっとも痛手じゃありません、って言う顔でにっこり微笑むと
「ま、まぁね。彩未も元気そうだな。ていうかすっげぇ変わっててびっくりした」
「整形でもしたんですかぁ」と女が厭味ったらしく笑らってきた。
「整形したんなら二週間でここまで回復するのは無理だ。これは彩未のイメチェンとちょっとメイクしただけ」と運ばれてきたチーズの盛り合わせやら生ハムなんかの皿を受け取り天真が淡々と答える。
「そうだよな、顔は基本変わってないし」と目の前で知坂の痛い程の視線を受ける。
「ちょっとぉ、どっちの味方なのよ」と浮気女が知坂をちょっと睨む。
知坂は居心地悪そうに肩を縮こませた。
「で、彼氏さんは何をやってる人なんですかぁ?」と浮気女が天真を見てにっこり。
きたな、早速マウントを取りにきやがって。
「俺?ああそっか、言ってなかったっけ。私はこういう者で」
天真は(そんなのあったのか?)と言う名刺をテーブルに滑らせた。



