タクシーはちょっとオシャレな街に入り、病院を出て30分と言うところで到着した。
いかにも女の子たちが好きそうなダイニングバーやバルが並んでいる。その中で問題の知坂が出入りしていたイタリアンのお店を発見した。レンガ造りのビルの一階部分がその店だった。半月型の窓からオシャレに蔦が垂れていて中が見えにくい。
ちらりと窓から中の様子を窺ったが案の定人が結構多くて、知坂の姿が発見できない。
敵を認めていないのに、天真はマイペースにイタリアンの店の扉を開けている。
「いらっしゃいませ~ご予約のお客様で?」と店員さんの声を聞いて、て、天真!と一瞬焦ったが奥まった席で知坂と一瞬だけしか見てないけどこないだ知坂とベッドにいた女が向かい合って楽しそうに食事をしていたのを見た。
それを見るとさっきの不安や緊張やらが一気に吹っ飛んだ。
彼らは四人掛けの席に座っていた。
店員さんに案内される前、私は知坂が座っている席へ一直線。
「あの、お客様?」と店員さんの声を背後で聞きながら「大丈夫です、ツレなんで~」と天真の能天気ともとれる声も聞こえる。
浮気相手の顔はあまり見えなかったが長い栗色の髪をゆるやかに巻いてあり、白いニットに背中にはシアーなリボンが編み上げになっていた。ふわりとしたラベンダー色の長いスカートを見るとまるで妖精みたいだ。
なるほど、知坂の好みはこういうタイプか。
そりゃ私なんて相手してる場合じゃないわよね。
急激に冷めていく心がまるで固い氷のようになっていくのが分かった。その氷は知坂と過ごしている間からできていたかもしれないけれどそれに気づかないフリをしていたのは私。今はうず高く積まれた氷山そのもの。
「知坂、すっごい偶然。あなたもここに居たのね」
私がにっこり微笑み軽く手を上げると知坂は目を盛んにまばたき
「え―――?」と間抜けに答えた。
「やだ、忘れちゃった?私よ。彩未」とにっこり笑顔で答えると、知坂は椅子をがたつかせ慌てて立ち上がった。女の方も振り向き目を開いた。
「あ、彩未!ってあの冴えない知坂の元カノ!?」
そうよ、あの冴えない”元”カノよ。私はちらりと彼女を一瞥すると彼女は肩を縮こませた。
もう知坂やその浮気相手に何を言われたって怯まない。
「デート?偶然ね。私もデートで来たの」とすぐ近くに来た天真の腕にわざとらしく絡ませると
「嘘っ!すっごいイケメン!」と浮気女が知坂に聞こえないぐらいの声でびっくりしていた。



