そりゃ天真は最初の印象や風貌からは想像できないぐらい優しいけど、私、天真のおかげで今ようやく地に足がついた気がするの。

それまでは漠然と知坂との未来を予想して守ってもらうつもりでいたけれど、それは違った。

私は―――自分で地に足を付けて自分の力で歩いて、色んな意味でもっと強くならなきゃならない。

由佳との通話を終えると午後の診察が始まった。天真はいつ戻ってきたのだろう、診察室を覗くと椅子に座って口と鼻の間にペンを挟み唇を尖らせながら頬杖をついていた。

「あれ?戻ってたの?何で二階に戻ってこなかったのよ」と腕を組むと

「だって電話中だったろ?聞かれたくないだろうし」

ま、まぁ天真の話してたからね、聞かれたくはないが。

「でもこれじゃどっちが家の主か分かんないじゃん」と苦笑すると

「細かいこと気にし過ぎだ」と抜き取ったペンの先で頭をちょっと叩かれる。

天真のさりげなく気を遣ってくれるこうゆうとこ、好きだよ?


ん――――待て、自分。好きとか言わなかったか?


いや、天真のことが好きとかじゃなくてこうゆう細かいところとかね…と一人青くなったり赤くなったりしてると

「なぁに百面相してんだ?ほれ、午後の診察の受付時間が迫ってる。仕事仕事」と診察室を追い出された。やっぱ…優しくない。

受付のカウンターに向かうとやはり香坂さんが一人でカルテをそろえていた。

「やりますよ」と引き継ぎながらも「ねぇ香坂さん」と気になっていたことを香坂さんに聞いた。

「なぁに?」

「天真……先生って藤堂総合病院の副理事長って前聞きました。何で…いっちゃ悪いけどこんな街の外れの産婦人科に?総合病院の方が稼げるだろうし、時間もこんな風に縛られることないだろうし」

「ああ」と香坂さんは気のない返事を返してきた。

「理事長のお父様と仲が悪いみたいよ」とそっけなく返されて、それだけ??何だか色々腑に落ちなかった。