「近所をうろうろするだけ、って言ってなかったっけ?」とスーパーに入ろうとした私に天真が不審そうに目を細める。
「だっていつまでもデリバリーだったら栄養偏るでしょ。格闘家は体力勝負なんだし」
それに私だって少し太ってきた。やっぱ自炊しないとだめね。
「格闘家?」と天真が片眉を上げたのが分かって
は!しまった!私知らない体だった。
「だってあんなに強いし、私にトレーニング付けてくれるほどだから」と取って言い訳をして、慌てて「それでも私が何かしたいの。お給料をもらってる上にただで住まわせてもらってるわけだし」と取って付けたような言い訳。
でも天真は気にしてない様子で
「真面目なヤツだな~朝飯は作ってくれるじゃないか」
「今日から夕食も作る」キッパリと宣言すると
「それはちょっと嬉しいかもな。彩未の料理はうまいから」と天真の意外な答えに私は目をぱちぱち。
何か……うまく行った感じ?
「あ、にんじん安い」とカートを引きながら籠に放り込むと
「なぁなぁ俺ら何か新婚みたいじゃね?」と天真が高い背をかがめてにこにこ顔で私の顔を覗き込んでくる。
「見えない」と照れ隠しで玉ねぎをずいと天真の顔に押し付けると「そっかぁ?」と天真は不服そう。
でも―――新婚みたいって言ってくれてちょっと―――嬉しいかも。
肉や魚やその他もろもろ調味料を買っているうちに足が疲れてきた。知らなかった。10㎝ヒールで歩くのってこんなに辛いことだったんだね。マジで由佳を尊敬だよ。だってこんなの履いて毎日仕事してたんでしょ?由佳自身身長が低いから誤魔化す為とか言ってたけど、それでも凄いよ!
「今日はもうそれぐらいでいいんじゃね?足だって疲れてるだろうし、荷物も重くなりそうだ」
そうだけど…
早く―――もっともっと、きれいになりたい。天真のために。
あれ?私ってこんな風に思ったの初めてじゃない?
知坂のときだって思わなかったことなのに。あの時は自分がきれいじゃないことを認めていて、努力するだけ無駄だと諦めていた。その結果が浮気されて捨てられたわけだ。
天真には捨てられたくない、
やっぱ千尋さんの存在を知っちゃったからかな。



