嘘つきな天使


帰って、いつものパーカとスウェットのズボンに着替え、シャワーを浴びメイクを落とすと疲れがどっと私の体に伸し掛かった。

髪はまだ濡れてたけど、このままベッドに横になりたい気分。

今にも上瞼と下瞼がくっつきそうになっている私は目を擦りながら寝室に向かうと、今日天真から買ってもらった化粧水やら乳液やら美容液やらがベッドに並べられていて、

え?これからもしかして肌のお手入れ?

若干引き腰になっていると

「美人は一日で成らず」と言い天真は化粧水の蓋を開けるとコットンを手にとろみのある化粧水をそれに含ませる。

え?もしかして…天真がやるの??益々引き腰になると

「早くここへ座れ」とベッドに促され、仕方なく腰を下ろすと

「目を閉じろ」と言われ大人しく目を閉じると、優しい感触のコットンが私の頬や額をこれまた優しく滑っていく。あのごつごつとした大きな手とは反対にその手つきはとても優しい。

まるで顔を優しく撫でられてるみたい。くすぐったくも、離してほしくない気がする不思議な感覚。

その要領で乳液、美容液も塗られると

「よし、次は髪を乾かすぞ」といつの間に用意したドライヤーを手に天真が私の後ろに回り込んだ。

「ど、ドライヤーぐらい自分でできる」と抗議するも

「疲れたろ。ドライヤー中でも寝てていいし」

天真は優しく微笑する。

確かに疲れてはいる。けれど天真の笑顔で今までの眠気が一瞬吹き飛んだ。

何でそんなに優しくしてくれるの?

天真が言う私が「美人」だから??

ああ、天真が分からないよ。

美容師さん以外の男の人にドライヤー掛けてもうらの初めて。こうゆうの実は夢見てた。最初は同棲してた知坂に期待してたけど、知坂は一度もしてくれなかったな。そう考えるとやっぱり私最初から知坂から愛されなかったんだ。

ドライヤーのゴォォ、と言う音に紛れて涙が流していると

「どうした?熱かったか?」と天真がドライヤーを切って私の顔を覗きこんできた。

どうして……分かったの?私が泣いてるってこと。天真は私の後ろ側にいたっていうのに。

「な、何でもない。ちょっと……嫌なこと思い出しちゃって」

「トラウマ的な?」と天真が真面目に聞いてきて、私はゆるゆると首を横に振った。

「天真が―――」


優しいからだよ。


その言葉は言えなかった。