嘘つきな天使


店内はそれなりに賑わっていた。会社帰りの同僚たちの飲み会、あ、あっちはどこかよそよそしいのが合コンみたいだな~、とかふわふわ女子たちだけでこんな場所でも女子会するんだ、とか色んな発見。

変なの、前は全然気にしたことなかったのに。今はまるで目に映る全てが新鮮。

相変わらず男性の視線が痛いけれど、気にしない素振りで目を逸らす。逸らした先に毎回天真の顔が映って、当のご本人はすっごく満足そうににこにこしてるし、まっ、いいか。

ビールに枝豆、唐揚げやポテトフライ。居酒屋定番メニューとビールを注文して私たちは乾杯。

居酒屋さんなんて久しぶりだ。

ビールを飲みながら

「何か懐かしいな~、知坂と前は行ってた…」と言いかけて「いや、でも三か月に一回ぐらいだよ」と慌てて手を振る。言い訳にしてはあまりにもお粗末過ぎる、とがくりと来た。

これじゃまだ知坂に未練があるみたいじゃない。あんな酷いフられ方したって言うのに。何であの男は未だ私の中を我が顔で歩いてるのよ。

「三か月に一回?」とふつーにこの居酒屋に溶け込んでいる天真が枝豆をつまみながら

「うん、天真は?」

「俺は出かけるの面倒だからもっぱらデリバリー」

「そんな感じ」ふふっと笑うと

「普通のカップルって三か月に一回は居酒屋に行くもんか?」と聞かれて「うーん」私は首を捻った。

「お互いお酒は好きだったから、少ないっちゃ少ないかもしれないけど、知坂って意外に堅実家って言うか、ほらっ同棲してたから家賃の半分は私も払ってたけど、私だって給料高くないし……っていつの間に私の話に……とにかく知坂はああ見えて結構考えてたのかな?給料日前だと二人でカップ麺啜ってた」と笑うと

「笑えないジョークだな」と天真は静かに言いビールに一口。

な、なんか天真機嫌悪い??

私がまだ知坂とのこと引きずってるって思ってて機嫌悪くなったとか?それってヤキモチ?

ないない。そんなことないって。

それでもすぐに天真はすぐに機嫌を直し、食事は楽しかった。

毎日一緒にいるわけだし、会話に困るかなとか思ったけれどいつも通り笑ったり時々怒ったり。お酒の力もあってか私はいつもより多く喋った。

そして二時間程飲み食いしてお腹もいっぱいになってほろ酔いになった頃を見計らって、今度こそ天真の家に帰ることになった。

「あー!おいしかった!あの明太入りの出汁巻き卵サイコーだった!」

私が以前知坂に作った明太入りだし巻きとそれほど味は変わらなかった気がするけどやたらとおいしく感じたのは何故だろう。

「こんなんでいいんならまた連れてってやるよ」と天真は私の頭をぽんぽん。

「ありがと」いつもより素直になれるのは疲れた一日の最後に美味しいお酒を飲んだからか。

それとも違う何かなのか―――このときの私には分からなかった。