「金田さんとこ行くんだろ、車出すから早く着替えろ」
天真はいつの間にか手にした車のキーを指の先でくるくる。
「え、いいよー天真だって疲れてるだろうし。病院には西園寺刑事さんがいるんでしょ?」
「行く途中に何かあったらどーするんだ、バーカ」と天真がまた軽くデコピンしてきて、打たれた額を押さえていると、
「それから、俺の前だけでは髪ほどけよ」と言われ、一つくくりにしたヘアゴムを引っ張って取られる。パサリと私の髪が解かれ肩や背中に垂れた。
「な、長い髪がタイプなの?」そう言えば写真の中の女性も髪が長かった。
「いや、ボブぐらいかな」と天真はあっさり。
え?
「じゃー髪ほどく必要性ないんじゃ」
「そっちの方が可愛いから。彩未に似合ってるから」と天真はまたもあっさり。
「な、何度も言うけど私可愛くないから。天真こそあのエロそうな眼科医の先生に一度診てもらった方がいいよ」
恥ずかしいのを隠す為、横の髪で顔を覆うように隠すと
「何度も言うけど彩未は可愛い」
天真の手が私の手に重なって、ゆっくりと剥がされる。力の差なのかな……ううん、この人には抗えない何かがある。
「さ、早く着替えろ」とすぐに話題は逸らされ「う、うん……」私は先に天真がガレージに向かうのを確認して慌てて着替えた。
由佳が入院している藤堂総合病院は天真の車の運転で20分と言う所に位置していた。
まだ面会時間は過ぎていないのか、私たちは総合受付で由佳のお見舞いに来たと説明するとあっさりと案内された。と言うか天真のおかげよね。
受付の女の子たち「天真先生」って目がハートになってたし。知らなかったけど、天真って意外にモテるんだ……って、まぁここの副理事長だったらオイシイ物件よね。よく見るとイケメンだし。これでちょっとは自分の外見に気を遣えばね~(私が言うなって感じだけど)
由佳は処置室から一般病棟に移っていて、病室の前には二人のいかにも強面と言った感じのブラックスーツの男の人が後ろで手を組んで突っ立っていた。病院ではなかなか見ない物々しい雰囲気に一瞬だけ足がすくむ。
しかし西園寺刑事があらかじめ私たちの顔写真を見せていたのだろうか、私たちは特に疑われることなくあっさりと病室の中に通された。
病室は二人部屋のようで、手前のベッドは空室になっていた。奥のベッドで由佳が半分だけ起こしたベッドに背を持たれさせ窓の外をぼんやりと眺めていた。今夜は生憎の曇天だ。分厚い雲が普段だったらきれいに見える月の半分以上を隠している。あまりきれいと言い難い風景を由佳はじっと見つめていた。
「由佳……」
そっと声を掛けると
「彩未、…と先生まで?」由佳は私が想像する以上に元気そうで私たちを認めるとぱっと笑顔を浮かべた。その笑顔は無理やりなのかどうか薄暗い病室でそれが判明しかねたが、声は少なくとも無理をしている様子ではなさそうだ。そこにちょっとほっ。
「由佳、体は大丈夫?どっか痛いとことろか」と聞くと
「んー、まだちょっと子宮ら辺が痛いけど動けない程でもないよ。なんかアレに似てる。生理痛みたいな?」と由佳はちょっと笑った。
そっか……そう言うものなのか。



