「先生ー、午後の受付あと15分ですよ~」と階下から香坂さんの大きな声が聞こえてくるまで、私たちは熱中していた。
パーカ姿でレッスンを受けていた私はそのパーカが汗でぐっちょりしていて、額からも汗の玉が流れ落ちてくる。
そんなに激しく動いたつもりはないけど、結構体力つかったかも。息がぜいぜい言ってる。
「ほれ」と天真にバスタオルと、用意された(午前中も着てた)ナース服を放り投げられ、私は危うくそれをキャッチ。
「汗拭いたらそれに着替えて、午後の診察開始」と言われ、
「う、うん。ねぇ、私って素質あるかな。大丈夫かな」と不安げに天真を見ると、天真は顎に手を当て
「うーん」と唸り「素質があるかどうかは今は分からん」とあっさり。
あっそ。がくりときていると
「でも飲み込みは早い」と天真が笑いながらタンクトップを脱ぐ。
「だから、どこでもすぐ脱ぐ癖やめて」と私が目を吊り上げると
「しゃーないだろ、部屋はここと狭いダイニングしかねぇんだし。俺だって診察の準備があるし」
そーだけど…
相変わらず鍛え抜かれた背中には片翼のタトゥーしかなくて、『どうして二つ彫らないの?』とは何故だか聞けなかった。
部屋のチェストを何となく見ると、こないだ見た写真立てがいつの間にかなくなっている。
あれ?どこかに片付けたのかな。
不思議に思って首を傾けていると、すでにカットソーに着替えた天真が白衣を羽織りながら
「じゃ、俺先に行ってるから、遅れるなよ」と言い残しさっさと下にいってしまった。
私が―――聞いていいことじゃないよね。
あの写真立ての女性のこと。フラれた今も大事に飾るぐらいだから思い入れだってあるだろうし。不用意に天真の暗い……かどうか分かんないけど過去を掘り起こしちゃダメだ。



