「条件?」
天真の太い眉がぴくりと動いた。どちらかと言うと垂れ目がちなのに、妙な鋭さもあるし。睨まれてるわけじゃないのに怖っ…
でも怯んじゃだめよ彩未!
「天真は私を守るって言ってくれた。正直すっごく嬉しかった」
「じゃぁ…」
「でも天真が居ないときは?24時間一緒にってわけにはいかないでしょ?
だから私にも教えて。護身術。自分の身は自分で守れるぐらいの。ほらっ!天真今日見たけど二人の男をあっという間に倒しちゃってすごく強かったから。
教えてくれたらカフェも辞めるし、天真の病院で働くし、天真のおうちにお世話になる」
「くっ…」天真は声を殺して笑った。
な、何笑ってるの?てか笑うとこ?
「つえー女、やっぱ俺が見込んだだけあるワ」
え――――……?
「や、最初から思ってたけどさー、あんたあの由佳って子のことになると必死になってたし大事な物を守ろうとするその気持ち、普通はないよ」
そう―――なの……?
分かんない。
私はただ由佳が大事で、それは恋とか違うけど由佳を支えたい気持ちには変わりない。
そんなことを思っていると
「金田 由佳さんのお連れさん――――」と処置室から出てきた女性看護師さんに呼ばれ、私と天真は顔を合わせると二人で立ち上がった。
慌てて処置室に向かうと病院独特のそっけないベッドの上で由佳は横になっていて腕には点滴がささっている。
白衣を着た医師と思われる男の人が、入ってきた私たちを見るとゆるゆると首を横に振った。
「手は尽くしましたが―――赤ん坊は―――」
そんな―――
膝からがくりと力が抜けそうになって天真が慌てて私を支えてくれる。
由佳は目を閉じ眠っている。
麻酔が効いているのか、それとも何か別の理由で?
一瞬心配になったが
「さっき少し麻酔から目を覚ましましてね、事情を説明したら……たぶん一時的なショック状態ですね」
そんな―――……
じゃぁ最初から天真に任せれば良かったんじゃ…とさえ思えてくる。
「言ったろ?”ここ”は器材も揃ってるし、俺よりいい医者が揃ってるって」
「だって天真、切迫流産の場合は助かる確率が高いって」
思わず天真に当たってドン!と天真の分厚い胸板を叩くと
「ここに運ばれてきたときはもう手遅れでしたが、天真先生の処置が早かったから子宮や卵巣など傷が無く侵入奇胎と絨毛癌等の心配もありません。後は本人の気力の問題ですね」
侵入奇胎と絨毛癌?全く分からないが、赤ちゃんは流れちゃったけど他は大丈夫ってこと?
「大丈夫、若いし子供が作れなくなったわけではない」と医師に説明され、私はさっき殴ったばかりの天真の胸の中に顔を埋めた。



