「ところで天真、産婦人科は?患者さんが待ってるんじゃ?」とちょっと気になったことを言うと

「今日の午後は元々休診だ。だから心配するな。お前と一緒に待ってるよ」天真は私の頭を抱き寄せると打たれた頬に「代わる」と言い氷嚢を当ててくれる。これはちょっと……恥ずかしい気がする。子供じゃあるまいし。でも

午後休診。

そっか……だったら
安心。

由佳はなかなか出てこなかった。

私たちは処置室から少し離れた総合受付で由佳を待つことにしたが

「なぁ、その莉里って女の写真とかないのか?」と聞かれ私は首を横に振った。

「だって会ったのもついさっきだし、10分も喋らなかったんだよ。まさか―――疑ってるの?」

「”A”にチクった可能性はあるな。俺が西園寺を紹介しても何もなかったろ?」

そう―――だった……

タイミング的に、良すぎだよね。

「こ、怖くなって言っちゃったのかも。自分のせいじゃないって。庇うつもりはないけれど誰だってそんな怖い人相手だったら怖いし」あまり感じのいい子ではなかったけれど。とは何故だか言い出せなかった。由佳が信頼している子をあまり悪くは言いたくない。

「まぁそうかもな」

「ねぇ、ところで天真は何であの場所に?まさか私たちを尾けて?」と疑いの目を向けると

「まさか。俺はそんな非効率なことしない。彩未のスマホに分からないように追跡アプリを入れておいたんだよ」

つ、追跡アプリ――――!!

い、いつの間に!

って……私が呑気に寝てたときにしか考えられないじゃん!

もう、私のバカ!!

「ところでお前、今日どーするんだ?どこか行く当てがあるのか?」

は!そーだった……知坂の家も追い出されちゃったし、今更実家になんて帰れないし、何より由佳の近くに居たい。全然決めてないよー……

ビジネスホテル……は私の貯金をざっと計算して高いから「ネカフェとか……?」思い浮かんだ場所を言うと

「バカか!女が一人で一晩あぶねーだろ!」天真に叱られた。

この私を女扱いしてくれるのは嬉しいけど、私こー見えて一応けが人。

「でも、行く当てなんて他にないし」

「じゃーしばらくうちで暮らせば?」

は―――――?

「ついでに今まで働いてたカフェのバイトも今日限りで辞めろ」

な、何で!!

「辞めろっつったって、じゃぁ明日からどう暮らしてけばいいのよ!」

「あいつらは蛇みたいなネチっこい奴らだ。お前の勤め先なんてあっという間に調べ上げて、今度は今日以上の怪我をするかもしれないんだぞ、サイアク死ぬかもしれない」

死―――

「お、大げさだな……それに天真自分で言ってたじゃん”A”のことあまり知らないって」

「知らないが、莉里って女がチクったせいであいつらはすぐに動き出しやがった。今後のことは容易に想像できる」

「だけど…!」

バイトを急に辞めろとか、それは流石にできないよ!それに天真の家に住むとか!と言う意味を込めて天真を睨むと

「ただでうちに来い、とは言わない」と天真はにやりと不敵に笑った。