電話をしたのは私だが天真が途中で変わって
「俺だ。藤堂 天真だ。切迫流産の可能性有の患者28歳が一名。大至急救急車を回してくれ。―――あ?場所?俺のGPSを辿れ!」
だ、誰か知り合いがいるのかな……何でもいい、誰でもいい、由佳を助けて!
救急車が到着したのはそれから五分にも満たなかった。その時間がとても長く感じられた。
「由佳!しっかりして!もうすぐ救急車が来るから」と由佳を地面に座らせて両肩に手を置くと
由佳はお腹の辺りを押さえ
「赤ちゃん……私の……彩未……どうしよう……私…ホントは産みたかったのかな…」
由佳―――……
涙が出そうで目に手を持っていくと、ここで初めて自分の頬が腫れて痛い事に気づいた。さっき殴られたときの。
「お前も怪我してるじゃねーか」と天真は怒ったように言い「私なんて大丈夫だから」と言う私も強引に到着した救急車に乗せて
「こいつの検査も頼む。名前は麻生 彩未。28歳。持病はなし」と救急隊員に慣れた様子で伝えて、
「て、天真は?」と救急車の扉が閉められる前に不安そうに聞くと
「俺も後をついてく。大丈夫だ、後で合流しよう」と言われ、何だかとても安心した。
天真の存在がいつの間にかこんなに大きくなっていたなんて、このときの私は気づかなかった。
その後この辺りで一番大きな藤堂総合病院に到着するとストレッチャーに乗せられた由佳が苦しみながらも処置室へと入っていき、私の方も私の方で軽く事情を説明するとレントゲンやらCTやらを取られ怪我の手当てを受けた。
私の方は幸い骨に異常はなく、軽症で済んだ。打たれた頬やお腹はまだズキズキ痛むけれど、時間が解決してくれるだろう。病院で借りた氷嚢を打たれた頬に当てていると天真は言葉通りすぐ病院に来てくれて広い総合受付で何とか合流できた。
「天真!」
「彩未!怪我は大丈夫か!」天真はまるで恋人を心配するように私の顔や体にあちこち触れてきて
「う、うん。私は大丈夫。だけど由佳が。まだ出てこないの」
振るえる声で俯くと天真が頭をぽんと叩いてきて
「とりあえず任せよう。切迫流産の場合は殆どの場合助かる可能性がある」
天真――――……
私は天真の胸の中で泣いた。
「わ、私が”A”を紹介してくれた子に会いに行こうって言い出したから……由佳は…」
「お前のせいじゃない」
とは言ったものの……
「その女、名前何て―――?」と天真に真剣に聞かれ
「えーっと…確か…尾上 莉里って言ってたかな…」
「尾上?」と天真が目を細める。
「知ってる人?患者さんとか…」
「いや、苗字には思い当たらないが莉里って名前どこかで聞いたような―――」
天真は心ここにあらずと言った感じで視線をどこかへ漂わせ、ゆっくりと目を閉じた。



