「何あれ!酷すぎない!?」と由佳の方を見ると、由佳は俯いてやははりジーンズの上で拳を握っていた。
「…ご、ごめんね由佳…私があんなこと言い出したばかりに……嫌な思いさせて…」
慌てて由佳の顔を覗き込むと、由佳の目にはやはり涙が浮かんでいて、それでも由佳は気丈にゆるゆると首を横に振った。
「彩未のせいじゃないよ。莉里ちゃんの言う通り。あの時点で疑うべきだったんだ。私がバカだった」
「だからってあの言い方は酷いよ」
「……莉里ちゃんのこと悪く言わないで……ホント、私がバカなだけだから」と言われるとこれ以上言えなくなる。
ひゅぅと木枯らしが私たちの間を吹き抜け、由佳との間に何だか温度差を感じたが、由佳は莉里ちゃんのことを大切にしているみたいだから、これ以上悪く言うのは良くないよね。
「とりあえず帰ろっか。ここは冷えるし体によくないよ」と提案すると由佳はゆっくりと頷いた。
「彩未にもごめんね。ここまでついてきてくれたのに酷い言い方しちゃって」
「気にしてないよ。とりあえず家に帰って最初から考え直そう」
会社から電車までの道を二人でとぼとぼと歩いていると、いつのまにか下り坂になっていてその先は小さな高架下になっていた。電車が走っている音が聞こえる。在来線が行ったり来たり、その音はなかなか止むことはなかった。交通の便はいいのだろう。
駅はこの高架下を潜り抜けた反対側にあるようだ。
陽が当たらない高架下に差し掛かると、前方から一台の黒いミニバンが近づいてきた。特別不審だとは思わなかった。狭い道路だし相手も歩行者を目視しているに違いない、少し大げさとも思える徐行運転も配慮だと思うと納得。昨日猛スピードで突っ込んできたトラックに轢かれそうになったことを思いだすと、その配慮はちょっとありがたかったり。
その車を避ける為由佳の腕を取って左側によると、その車は私たちの前で止まった。
ん??
運転席と助手席が開いて中からチンピラまがいの男たちが降りてきて、私は思わず目を開いた。
配慮―――なんかじゃない。
「金田 由佳はどっちだ?」と男の一人が聞いてきた。
何……この人たち……
「由佳、私の前に出ちゃダメだよ」と小声で振り返ると、一人の男がスマホを取り出し
「あー、手前の冴えないのは違うな。じゃぁ後ろのか」と言い私たちに近づいてきた。
さ、冴えないーーー!?まぁ私は地味だけどね!誰かも分からない人に言われたくないわ!
私が一歩下がると男たちはにやにや笑いながら腕を伸ばしてきて、私がその腕を振り払おうとするといきなり顔を殴られた。
予期せぬことと一瞬にして頬に熱い何かが走り、私はみっともなく吹っ飛ばされた。コンクリートにしたたか尻を打ちすぐには起き上がれそうにもない。
「いや!!」由佳が男たち二人に掴まれている。男の一人が後部座席のスライドドアを開けて、その中に由佳を押し込めようとしている。
「何する気!」打たれた頬と尻もちをついたお尻が痛いのも忘れて飛び上がると、私たちは男たちに向かって突進した。
するとまたも男の拳が飛んできて、しかし今度は頬ではなくお腹だった。
またも私は吹き飛ばされた。
胃の中の全てのものを吐きそうになって慌てて口を押える。
コンクリートの壁で頭を打ったのか視界が一瞬歪んだ。
「いやっ!彩未っ!助けて!」と由佳が二人の男に連れていかれそうになったとき、何とか力を振り絞って立ち上がろうとしたが足に力が入らない。
骨折した感じはしないから、これが恐怖から来るものなのか単なる捻挫なのか。
そのときだった。



