嘘つきな天使


「え!あのクラブでそんなことが!?」

流石の莉里ちゃんもびっくりして目を開いていた。

「莉里ちゃんは……その…被害に遭ってない?」

「私は…先輩とちょっとはぐれちゃったとき、トイレに行ったのかな~って思って呑みなおしてたんですけどなかなか帰ってこなかったから帰っちゃったのかと思って、私も一人じゃ居づらいし帰りました」

と言うことはこの莉里ちゃんは被害に遭ってないってことか。

でもなー、何か引っかかるって言うか…

由佳は莉里ちゃんがトイレに行ったとき拉致されたって言ってた。莉里ちゃんははぐれたと言った。二人の思い違いならしょうがないけれど、最初から由佳が狙われてたみたいな感じも受ける。

「ね、その”A”ってお店どこで知ったの?知り合いの紹介じゃないと入れないんでしょ?」私が前のめりになると莉里ちゃんは腰を引き

「……知り合いの知り合いで…私も良く知らないんです」

はぁ

私は小さくため息を吐いた。

「よく知らない人の情報でよく行く気になったわね」

「だってぇ出会いが欲しかったしぃ」と莉里ちゃんはづ拗ねたように唇を尖らせる。この子には危機感と言うのが欠如しているのだろうか。

「ねぇ、その知り合いの知り合いって人に連絡取れない?」尚も食い下がると、流石に莉里ちゃんも不審そうに顔を歪ませ

「せ、先輩が被害に遭われたのはお気の毒だと思いますが私は、その知り合いと直接関りがないから連絡の取りようもありません」

私は親指の爪を噛んだ。

「これじゃ証拠として全然使えないな」と独り言を漏らすと

「証拠?」と莉里ちゃんは目を上げた。

「うん、このこと知り合いの警察に相談したの。でも警察も証拠がなければ動けないみたいで」と今度は由佳が説明すると

「警察に!?」と莉里ちゃんは声をあげた。あまりにも大きな声だったから周りのテーブルの人たちが不審そうにこちらに視線を向けた。

莉里ちゃんは慌てて俯き、私たちを睨むような形で目を上げると

「先輩、入店前のチェック項目ちゃんと読みました?責任は負えないって、つまり警察沙汰にはしたくないってことですよ」
と小声で言った。

「何となくわかったけど、でもただのクラブでしょ?私が被害に遭うなんて誰が想像できるの」と由佳も声を潜めると、莉里ちゃんはちょっと考えたのち、まだ口を付けてもいないガパオライスの蓋を慌てて締め

「ごめんなさい、由佳先輩には悪いですけど、私も巻き込まれたくないので」と顔を青くして立ち上がった。

「え…!ちょっ…!」と、と止める間もなく莉里ちゃんはがポオライスのパックとお財布だけを手に慌てて立ち去っていった。

な、にあれーーーー!!!!