嘘つきな天使


由佳の勤めている会社は由佳の家から最寄りの駅で電車で10分程度の所に、これまた大きなビルの一つにでかでかと社名が入っていた。

由佳は社員証があるから入れるけれど部外者の私は入ることができない。

と言うことで由佳の後輩と言う子を昼休憩に近くのキッチンカ―が並ぶオープン広場に呼び出してもらった。

指定時間の5分後「由佳せんぱ~い」と明るい声をあげて走ってきた由佳の後輩と言う子は、由佳と少し雰囲気の似たこれまた可愛らしい子だった。白いコートの中はベリー色のニット、ふわふわのスカートも同系色の花柄模様があしらっていて、由佳も前こんな風だったな~としみじみ、しかしこの子が”A”をしつこく誘ってきた子?こんなに可愛ければ自力で何とかできそうなのに……

会社を抜け出てきたばかりなのだろう。赤いネックストラップと社員証を下げて走ってきたが、由佳とは違い随分健康そうだった。つまりこの子は被害に遭ってないってこと??

後輩の子は病みやつれて変わり果てた由佳を見て一瞬息を呑んだ。

「先輩!?どうしたんですか!会社も急に休職しちゃうし」

由佳は後輩の子の質問の前に私に

「あ、紹介するね。今同じ部署で働いてる後輩の尾上 莉里(おのえ りり)ちゃん。莉里ちゃん、こちらは私の高校からの同級生で…」

「麻生です」と私が名乗ると莉里ちゃんは小さく会釈をしてきた。

莉里ちゃんはお昼休憩と言うことで近くのキッチンカ―でガパオライスと、ご丁寧にも私の分のホットコーヒー、由佳にはオレンジジュースを買ってきてくれた。

財布を取り出そうとすると

「いいですよ、これぐらい」と莉里ちゃんは笑顔で両手をあげる。感じのいい子だな。

「ありがとう……でも莉里ちゃん、私オレンジジュースあんまり好きじゃないって前言わなかったっけ…」と由佳が言うと

「え~そうでしたっけ?私の勘違いかな」と莉里ちゃんは計算されたように可愛らしく首を傾ける。

「思い違いだよ、誰かと間違えることなんてよくあるし、今はカフェイン摂っちゃダメだから」大のコーヒー好きである由佳の肩を撫でると

「え?カフェインダメって…どういう……まさか加納さんとの!」と莉里ちゃんは口の前で手をぐーにして合わせる。

「ち、違うから!違くないけど……」

「えー、どっちなんですかぁ」と莉里ちゃんはじれったそうにガパオライスの蓋を開けた。蓋を開けるとナンプラーとバジル、鶏ひき肉のいい香りが香ってきた。そう言えば昼食時か。お腹もすく筈だ。だけど由佳はその匂いがキツかったのかハンカチで鼻を押さえ顔を青くさせている。

「実は……」由佳がジーンズの上でぎゅっと拳を握る。

なかなか言い出せないことだろうことが分かっていたから、説明は私がすることになった。