今日の朝食はだし巻き卵と、豆腐とわかめの味噌汁、焼き鮭とサラダとごはんと言う献立だ。作り立てだからほかほか湯気が出ている状態なのに知坂は「トイレ行って、顔洗ってくる」と言ってテーブルに並べられた料理をちらりとも見もしない。
同棲したばかりはいち早く『わ!うまそう!』って飛びついてたのに、年月が経つとこうなるのかな。
まぁいつまでも同じリアクションを求める私も大人気ないか。
友達の由佳も同棲してる加納くんの態度が前と違ってきているってこぼしてたし。
あ、由佳とは高校時代からの友達。お互い陰キャ同士気があったけれど、由佳の方は高校を卒業して都会の大きな大学に見事合格。大学って華やかな場所なのかな、それとも付き合う友達が変わったからか由佳は見る見るうちに変わっていって可愛くなった。加納くんは三歳年下ののエリートサラリーマンっぽく見えて由佳が働いている会社で知り合ってもう三年程のお付き合いになる。
一度紹介されたときは、明るくて爽やかでいい人だった。その後も私が遊びに行くとホントTheいい人。
私を可愛い由佳と同じ扱いをしてくれる。
コーヒーを淹れながらそんなことを考えてると知坂が戻ってきた。
「おー、うまそうな匂い」と言って最初に手をつけたのはコーヒーだった。いいけどね、せめて席に座ってからにしてほしいよ。
立ったままコーヒーを二口飲んだところで知坂はようやく席についた。
「ねぇ、今日の帰りは?ビーフシチュー作ろうと思うんだけど」最近寒くなってきたから無性に食べたくなった。しかもビーフシチューは時間も掛かるから知坂の事情は知っておきたい。
「あ、わり。今日も俺飲み会誘われてるんだった」
「えー、またぁ?」
確か一昨日もそうだったよね。最近増えてる気がするけど、会社の同僚との付き合いも大事だし。ここでごちゃごちゃ言って嫌われたくない。
「そっか、じゃぁシチューは明日にするね」
「悪いな」
ホントに悪いと思ってるの?知坂はスマホを見ながらだし巻き卵を口に入れる。
気づいてくれたかな?今日は特別に安売りしていた明太子を入れてみたんだけど。
だけど知坂の反応はこれと言ってなかった。
やっぱり安売りしてたからおいしくなかったかな。私はこれはこれでいいと思うけど。と一人もそもそと食べていると
「なぁ」と知坂が顔を上げた。
「何?」私の顔は急に華やぐ。
「その丸メガネ、似合ってないんじゃねーの?」
………
だって私視力悪いし、確かに一本一万も満たない安いものだけど、明太入りの卵焼きよりメガネの方を指摘する?
「コンタクトにはしないの?」と知坂はスマホをスクロールさせながら私の方を見ずに言う。
「うん……チャレンジはしてみたけどやっぱ怖くて…」
「ふーん」
会話は終わってしまった。
私たち、こんな風でいいのかな。
そう言えば、付き合いが長いって言うのに知坂が誰か友達を家に連れてきたこともないし、また誰かに紹介されたこともない。
こんな風でいいのかな、がだんだん膨れ上がって来る。



