■ 危険な探偵ごっこ。


由佳は私の為にコーヒーを淹れてくれようとしたけれど、私はそれを止めた。

「今はゆっくりしてて。飲み物ならほら自分で買ってきたから」と私はミルク多めのカフェオレのペットボトルを取り出すと由佳がちょっとほっとしたように頬を緩ませた。

「ねぇ、中絶する意思は変わりないの?」と聞きづらいことを早めのうちに聞かなければずるずる終わってしまう気がして私は思い切って聞いてみた。

由佳はこくりと小さく頷いた。

「私は反対しないよ?反対しないけど、あの藤堂先生が言ってた通り7週目まで待って検査してからでも遅くない?」

隣に座った由佳の、すっかりやせ細って骨と皮になってしまった腕を握ると由佳は首を横に振った。

「ずっと考えてたの。尚くんの子供なら勿論産みたいって。でも……でもね、あの事件の記憶が消えることは一生ないと思う。今でも夢に見る。あの日のこと。うなされて絶望感に襲われて朝まで眠れないの。そんな中例え尚くんの子供だと判明しても生まれてきた子を愛せる自信がない」

由佳はぽろぽろと大粒の涙を流しながら顔を覆った。

由佳――――

何で由佳がこんな目に……

と私も泣きたくなった。

そもそものキッカケは由佳の後輩がしつこく誘ってきたから、であって……

ん?

それは殆ど閃きに近かった。

「ねぇ由佳、その誘ってきた後輩の子は何もなかったの?」そう聞くと由佳は涙の浮かんだ目をぱちぱちさせ

「……あれから連絡取ってない……」

「その子ももしかして同じ被害に遭ってて声をあげられないかもしれないし、そもそもその子はどういういきさつでそのクラブを知ったの?」

私が口早に聞くと、由佳はゆっくりと首を捻った。

「…そこのところはよく知らない」

「ねぇその子に連絡してみない?その子自体何も知らなくても何か手掛かりになるものがあるかも」と提案すると由佳が目を開いた。

「で……でも手掛かりって……知ってどうするの?警察だって手が打てないって言ってるんだよ」

「その後は西園寺刑事さんに任せよう。手がかりや証拠がないから警察も動けないんだって。でも証拠の一つでも手に入ったら動いてくれるかも」

私が力説すると由佳は目をまばたきながらもどうするべきか逡巡しているようだった。

「これ以上由佳みたいな被害者を出さない為、大事なことだよ」と言うと、由佳は小さく決意したようでテーブルに置いたスマホに手を伸ばした。