本当は大きなスーパーがあれば良かったんだけど、例えあったとしても時間外だろうし、コンビニで買ってきた食材でできたのは

トーストと目玉焼き、焼いただけのウィンナーと言うお粗末なものになっちゃった。

それでも天真は子供のように喜んだ。

「すっげぇな!何年ぶりの手料理だろう」

いや、手料理って言うレベルじゃないし。

それに、知坂に作ってた朝食と比べて全然だし。

それでも天真は美味しそうに全てを平らげた。

食べ終えてコーヒーを飲みながら天真が

「今日の彩未の予定は?」と唐突に聞いてきた。

「んー、今日はバイト先の店が定休日だから由佳の家に行ってみる。昨日の今日で加納くんとちゃんと話できたか分かんないけどちょっと心配で」

「そっか、気ぃつけていけよ」

「うん」

って……ちょっと待て!な、何…この恋人的な会話!!

だって一度寝ただけの相手だよ?私たちそう言う関係じゃないし。それでも何だかすごく久しぶりにする会話のように思えて心の奥底がちょっとだけ甘くくすぐったい。

でも、ここに帰って来ることはもうない。私は持ってきたボストンバッグを手に病院を出た。

由佳と加納くんが住むマンションは天真の病院の最寄のバス停から10分程度のところにある。

インターホンを押すと、相変わらずやつれた顔の由佳が顔を出し出迎えてくれた。

「由佳、ちゃんと食べてる?行きのコンビニで食べられそうなもの買ってきたよ」とゼリーやオレンジジュースのパックが入ったビニールを差し出すと由佳は力なく笑い「ありがと、やっぱ彩未は優しいね」と言い、リビングに通してくれた。

加納くんは仕事みたいで不在だった。由佳は事件があったあの夜の次の日から会社を休職している状態だと言う。

「昨日ね、加納くんに会ったよ」私は正直に打ち明けた。由佳は目をぱちぱちさせ

「尚くんと?何で!」と勢い込んできた。

「由佳に”人工中絶同意書”にサインしてほしいって言われたけど、できないって悩んでた。二人でもう少し話し合ってみたら?って言ってみたけど、話し合い、した?」と聞くと(流石に天真がそこに来たとは言えなかった)

由佳はゆるゆると首を横に振った。

「尚くん、昨日帰ってきて早々に印刷所に呼ばれちゃって、それどころじゃなかった」

「印刷所?って10時は過ぎてたよ」思わず目を開くと

「広告代理店の営業にはよくあることなの。私も少しだけ営業にいたことがあるから分かる」と由佳は力なく笑って私をソファに勧めてくれる。「しかも尚くん入社してまだ四年目だから今が頑張り時だって、早く私と結婚するためどんなことしてでもお金貯めるって張り切っちゃってて」

ふふっ、と由佳が小さく笑った。

由佳―――理由がどんなであれ、やっぱ大切な由佳には笑っててほしいよ。