歳の頃は20代後半って感じかな。背景にひまわりが映っていてその中で彼女はひまわり以上の優しくて可愛い笑顔を浮かべている。
天真に向けられた笑顔だ、とすぐに分かった。
ってことはこの人が天真をフッた人―――?
フられたのに写真を飾っておくなんて案外引きずるタイプなんだな。でもこんなきれいな人相手にしてたら五年彼女ができないのも頷ける。
私はその写真立てを伏せ、小さなキッチンへ向かいこれまた小さな冷蔵庫を開けてみた。
一晩泊めてくれたお礼に朝食だけでもごちそうしてやろう、と言うつもりで。
しかし冷蔵庫を開けてガクリときた。
冷蔵庫の中身はペットボトルの水とビールが数本だけ。あの人どーゆう食生活してるの?もしかしてアメリカのFBI捜査官?(よくドラマで見る状態)
仕方なしに近くのコンビニで何かを買おうかと寝室に戻りトートバッグから財布を取り出そうとしたとき、クローゼットがちょっと空いているのが分かった。
ズボラ説は当たってるかも、だけど私の服をきちんと畳んでくれたからどっちなんやら。人には気を遣うけど自分のことはそれ程ってタイプ?
クローゼットを閉めようとしたけれど何かが引っかかっていて扉はうまく閉まらない。
何だろ…
特に悪気があったわけじゃなく引っかかっている何かを取り出すと
天使のマスク―――?
そう言えば、片翼のタトゥー。
知坂がハマってた格闘家の『エクス―シアイ』って言う名前だったっけ……のマスク。
え!?
あの人が『エクス―シアイ』!?
てかあの人産婦人科医なのに副業してたの!?
って言うか何で昨日の時点で気づかない私。
見てはいけないものを見てしまったようで私は慌ててそのマスクを押し込むとクローゼットの扉を閉めた。
分からない。
分からない―――藤堂 天真が。
ブツブツ言いながら最寄りのコンビニに足を運び、最初はおにぎりか何かを買っていこうかと思ったけれどそれじゃ味気ない気がして、陳列されている食パンと卵、そしてウィンナーを買って店を出た。これだけあれば朝食になるだろう。
そして藤堂病院へ戻ると、扉を開けると同時に内側からバタン!と扉が開けられてびっくりしてコンビニで買ってきた食材を落としそうになった。
扉を開けたのは藤堂 天真で驚きの表情を浮かべていた。天真は黒いスポーツウェア上下で首からタオルを垂らしている。
「ど……どーしたの?」思わず聞くと
天真は盛大にため息を吐き、その場に腰を下ろした。
「どーしたもこうしたも、彩未がいなくてびっくりして」
え――――?
「いや、こっちこそびっくりしたよ。起きたら居なかったし」
「わり、メモでも残して行くべきだった。俺、毎朝ジョギングしてるから」
そーだったんだ。
だからあの鍛え抜かれた体。
昨夜のことを思いだしそうになって顔が熱くなるのが分かる。
私は慌てて「昨日泊めてくれたお礼。朝食でも作るね。キッチン借りる」と言い天真の横を通り抜けるとバタバタとわざと大きな足音を立てて二階へと上がった。



