藤堂 天真が振り向き
「飛ぶことを忘れた天使かもな」と、またも小さく、そして寂しそうに笑った。
何故―――そんな顔をするの?何故―――あなたは涙を流さないの?心の中でずっと泣いてるのに。何故そう思ったのか分からない。でも、この時確かにこう感じたんだ。
私は天真の頬にそっと手をやった。天真が私の掌を包みそこへキスを落とす。
ゆっくりと、それでいて丁寧に着ていたカットソーを脱がされ露わになった下着姿は、今日は知坂とそうなるつもりだったから通販でちょっとお高めのを張り切って買った上下セットだった。
それがせめてもの救いなのかそうじゃないのか。
「純白のレース?いかにも純粋そうな彩未には似合ってる」
似合ってるって言われて嬉しいのか、はたまたバカにされてるのか。知坂の浮気相手の女の下着は鮮やかなベリー色だった。知坂はああゆうのが好きだったんだ。三年も付き合ってたのに知らなかったよ。
と考えていると、不意打ちに胸元にキスが落とされた。
「まーた余分なこと考えてるだろ」
「え……?」
「集中しろよ。俺を見ろ。目の前の俺だけを。心も体も」
心も体も―――
よく見ると天真は意外に整った顔をしていた。堀が深くて顔のパーツのどれもが男らしい。産婦人科医には相応しくないワイルドな顔つき。なのに手つきは天使のように優しく。
私を抱く動作はとても丁寧だった。いつも機械的に自分よがりの知坂とはまるで違う。
私の肌を撫でるごつごつした大きな手も、思ったより高い体温も、全部全部まるで最初から知っているように私の体になじんだ。
これは俗にいう相性というものなのか。
とても気持ちいい。
まるで二人がドロドロに溶けあってるみたい。
こんなセックス初めて。
藤堂 天真は私のこと何度も「可愛い」と言ってくれた。そう言われるたびに涙が出てきた。こんな風に優しく抱かれたの、初めて。



