「な……何であんたが!!」

思わず声をあげると

「”あんた”じゃなくて”藤堂せんせー”だろ?」と藤堂 天真は悪びれもせずにやにや笑いながら、同じくドリンクバーで取ってきたのであろう、アイスカフェラテのグラスを手に勝手にこっちに向かってきて、これまた勝手にドカっと私の隣に腰を下ろす。

ちょっと!座っていいなんて一言も言ってないんだけど!……って言えない。だって何だかこの人良く分からない圧があるんだもん。

「おたくが迷ってるのならもう一回彼女と話し合うべきだろ?大事なことなんだから」

え……

このひと……たまには良いこと言う。

「でも守るってどうやって。由佳は実際レイプされて妊娠させられて。俺にはもうどうすることもできないんだよ」と加納くんが苛立った口調で俯く。

「それにあんた、産婦人科を紹介するって言って結局警察頼りだったし」

ま、まぁそれは確かに、嘘を着かれたうえ、丸投げ感が否めない。

「まぁあいつはああゆうヤツだけどデキる刑事だから、紹介してやったんだ。普段はこんなアフターサービス的なことしない」

「じゃぁ何で」と私が顔を上げると、藤堂 天真は私の顎をくいと持ち上げて

「そりゃおたくが美人だったからサ。俺、美人には弱いの」と口元をちょっと上げて微笑されると、急激に顔が熱くなった。

「ば、バカにしないでよ!私美人なんて言われたこと28年間一度もないんだから」

「へぇおたく28?もっと年下だと思ったけど。今までの男どもは一体何を見てたんだろうな~目ぇ腐ってんじゃねぇの?」と言いながら、藤堂 天真は今度は私の頭の後ろに手をやって、一つ結びにしていたヘアゴムを引き抜いた。

目が腐ってるのはあなたの方です、とは言えない。
てかヘアゴム勝手に引き抜くな!

「髪だってさ、こんなきれいなのに。いっつもそのひっつめ髪?もったいねーって」

確かに私の髪は胸まである。でも不器用だから今風に可愛く巻いたり、ヘアアレンジができないから毎回楽な一つ結びで。

「あ、あなたに私のこととやかく言われる筋合いはないし、加納くんにだって失礼ですよ」

精一杯の威嚇で藤堂 天真を睨むと

「あー、ダメダメ。美人が怒るとホントに怖いから。怒るのなしね~」とからかうように言われ

何なのこの人!人をバカにするにも程があるよ!

私は自分が美人でないこと生まれて物心がついたときから分かってる。この顔と付き合って28年。私は私のことを一番よく分かってる。だから”美人”て言われるとバカにされたようで余計に傷つく。