どれぐらい時間が経ったのか。私は当たり障りのない会話で時間を稼いだ。
「いいビルね、高かったでしょう」
「まぁ俺はこう見えても儲かってるからね」
「何をしてるの?」
「な・い・しょ♪」ショウはそう言って職業を教えてくれなかった。
西園寺刑事さんは現行犯で逮捕すると言っていたから、それはつまり私が襲われる(フリ)をしなければならない、ということだ。
だがこの男は会話をするだけで手を出してくる気配がない。
仕方ない、こっちから仕掛けるか。
しかしさっきから天真と西園寺刑事さんの声が聞こえなくなった。あのノイズ以来。やっぱり故障なのかな、と思うと無意識のうちに右の肩甲骨の上辺りにあるタトゥーに触れた。
ここで初めてショウが興味を持ったようで
「深層の令嬢がタトゥー?パパが良く許してくれたな」
「普段は服で隠してるわ」意味ありげに退屈そうに目を伏せると
「なるほど、お嬢様は危険な遊びがしたくてここにきたわけだ」とショウは笑った。
「願いを叶えてくれるの?」と上目で聞くと
「ああ、思いっきり楽しませてやる」と上唇を舌でなぞった。
獲物は引っかかった、と思ったと同時に手を引かれ
「じゃぁここで存分に楽しもう」と言い、私がさっき覗き込んだカーテンを勢いよくショウは開いた。そこには映画でしか目にしたことのないキングサイズのベッドが一つ、趣味が良いとは言えないゴールドの枕とシーツがきれいにベッドメイクされていた。ここで女の子たちを襲っていたと分かると吐き気がこみ上げてくる。
ショウは私の肩を掴むとベッドに座らせ
「気が早いのね。せっかちなオトコは嫌われるわよ」と、ここになって顔が引きつるのが分かった。最後まで余裕でいたかったのに。
「俺は気が短くてね」とショウはネクタイをゆるめるとベストを脱いだ。
その間に素早くそのカーテンで仕切られた部屋の半分を見ると、ベッドの脇に大き目のテーブルが一つ。その上にノートPCが置いてあって開かれたままのモニターには会場内あちこちの映像が流れていた。なるほど、あれで獲物を物色していたのね。
そしてその脇に三脚に乗せられたカメラなのかビデオなのかが置いてあって、赤いランプが光っている。REC状態になっているに違いない。
「ごめんなさい、私そういう趣味がないの」とベッドに倒されそうになっていたところを、ショウの肩を押してビデオを目配せ。
「ここまできてそれはないだろ?あれが意外と興奮するんだぜ?」とニヤリとショウは笑いながらまたも私を押し戻し、ベッドに倒そうとする。
「だからそう言う趣味はないって言ってるでしょ!」とちょっと声を荒げてビデオの三脚部分を足で払うとビデオはあっけなく床に転がり、しかし壊れたのかどうかまで分からない。
思ったよりずっと短気なのか、それともあのビデオが相当高いのか
「この女調子乗りやがって!」といきなり平手打ちが飛んできた。
「キャぁ!」私はわざと大き目の声を出してベッドに倒される。結構な声を出したのに、この部屋の外の誰も気づいた気配がない、相当な防音加工がされてるってわけか。
私が声を出したのに天真からも西園寺刑事さんからも返事がない。やっぱり故障!?
「何だよ、さっきまですました顔してたのに、急に怖くなったのか?」ショウはまるで蛇が逃げるうさぎをいたぶるような目で笑い、顔を近づけてきた。



