嘘つきな天使


「アルコールを含むお飲み物、食事は全てご自由に口にしていただいて結構です。どうぞご自由にお寛ぎください」
支配人と思われる男に言われ私は頷いた。

正直、このクラブの飲み物や食事に口を付ける気にはなれなかったけれど何も飲まない食べないってのは変に思われるだろう。

アルコールを含むドリンクはバーカウンターにもあるし、あちこちにテーブル席もあってそこで男女が談笑しながらそれぞれお酒や軽食を口にしている。シャンパンや軽食を乗せたトレーを手にしたボーイたちもうろうろしていた。

ひとまず、由佳を強姦した男の目に付かなければならない。この場合バーカウンターに向かうのがいいだろう。その足でカウンターに向かおうとすると

「美しいお嬢さん、シャンパンはどうですか?」といくつもシャンパングラスを乗せたトレーを手に

天真!?

白いシャツに黒いベスト、黒いネクタイ姿の天真がウィンクしながら近づいてきて、

良かった、天真が運んできたものなら安全よね。と言うか思ったより広い会場で思った以上に早く天真の顔を見れたことに胸がほっとなった。

てか天真、ホントあんたはカメレオンかと思っちゃうぐらいボーイの姿が似合ってるんですけど。全く違和感ないよ。

「いただくわ」とシャンパンを一つ取ると

「あちらの席が空いております」と天真はご丁寧にも豪華なソファとテーブルがセットになっている席を手で指し示してくれた。

確かにそこは男も女も座っていない。まずは一人で飲みながら様子見ってことね。

言われた通りソファに座って間もなくすぐ隣に見知らぬ男が座ってきた。

「一人?」とまるで軽いナンパのノリで声を掛けてきたのは、三十代半ばと思われる顔は良くも悪くもなくふつーな感じの男だった。ここの男性会費が一体いくらかかるのか分からなかったが、この男は着ているスーツや腕時計、靴までもが高価なものだった。

「ええ」短く返事を返して

「一緒に呑まない?」と男に聞かれて、少しの間逡巡していると『とりあえず適当に受け入れろ』と天真の声が聞こえてきて、私は左耳をそっと押さえながら

「ええ、よろしくね」と笑顔を返した。男はみっともなくデレっと顔を歪ませ「じゃぁ乾杯」と言ってモヒートのようなカクテルをグラスに合わせてきた。

「実はこういうところ来たのはじめてなの。友達がここで彼氏ができたって言ったから私もと思って」と切り出すと

「彼氏いないの?」と馴れ馴れしく聞かれた。

「居たら来ないわ」とシャンパンを一口。

「君みたいな美人を放っておくなんてもったいないな」と男はさぞ驚いたような顔を作った。そんな話をしていると

「失礼、俺も一緒にいいかな?」と男がまた一人、そしてまた一人やってきて私の周りにはあっという間に男たちの群れができた。

純粋に出会いを求めにやってきた女性客たちは面白くなさそうにこちらを睨んでいたが、そんな視線を気にする余裕などなかった。