『第一回 夢物語』
変なタイトルでごめんね。
考えても考えてもこれしか思いつかなくて…
嫌だったら次から変えてね。
まさか自分が女の子と交換日記をする日がくるなんて夢にも思っていませんでした。
ふみちゃんに出会えてなかったらたぶん一生なかったと思います。
何について書いていいかもよくわからないので、最近自分の中で起こった変化について書こうと思います。
もしかしたらふみちゃんも気づいているかもしれませんが、僕は今まで友達ができたことがありません。
それは自分の暗い性格と、人として面白みがないことが原因だとずっと思い込んでいました。
でもそれは違うと、ある出来事がきっかけで気づいたんです。
最近新クラスになって初めての自己紹介がありました。
そこで僕は初めて自分の本音、素直な気持ちを正直に話したんです。
すると、一人のクラスメイトの心に響いて友達になろうと言ってくれました。
その時の嬉しさは、今でも鮮明に覚えています。
そこで気づいたんです。
僕は今まで自分が暗いと思い込むことによって逃げ道を作っていただけなんだと。
逃げずに、勇気を出して一歩踏み出すことが大切なんだと。
これからその子との関係がどうなっていくのか、今は楽しみで仕方ありません。
そして実は、初めて友達ができたその日の帰り道にふみちゃんと出会ったんです。
本当に不思議な一日でした。
でも、二人と出会えたことによって自分が本当の意味で変われて成長できるんじゃないかと心から思っています。
ごめんね、長々と。
交換日記って初めてだからこんな感じでいいのか全然わからないけど、とりあえずここで終わりにします。
最後に
〝ふみちゃんの夢が見つかりますように〟
◇
今までとちょっと違う感覚で過ごした月曜日。
今日の授業は全然頭に入らず、せいぜい覚えているのは〝アリストテレス〟ぐらいだろうか。
今日一日の思考回路は、最後の一文を消すか残しておくかで堂々巡りしていた。
結局悩んだ末、残したまま今は家のベンチに座っている。
彼女はまだ来ていない。
もう日記を百回以上は読み直したから、誤字・脱字などのミスはないはずだ。
ただ、脳裏をよぎるのはやはり最後の一文である。
消しゴムを取り出そうか迷っていると、自転車のブレーキ音が不意に鼓膜を震わせた。
一気に心臓の鼓動が速くなり、夢物語を持っている手に力がこもる。
足音が一歩一歩近づいてきて、先週会った時と同様の優しい笑顔を纏った女の子が僕の隣に腰掛けた。
手には、会話するときに使うのであろう新しいノートを持っている。
色は僕が一番好きな黄色だ。
「ふみちゃん久しぶり。元気だった?」
【うん、元気だったよ。啓太君は?】
「僕も元気だったよ」
相変わらず緊張のせいか、言葉が次々に出てこない。
そんな僕に相反して、彼女のペンは軽やかに弾んでいる。
【啓太君がどんな文字で、どんな内容のことを書くのかずっと楽しみにしてたんだ。】
「交換日記って初めてだからどんなこと書いていいのか全然わからなくて……それと最後の一文はあってないようなものだから気にしないでね」
会話をしている最中も、この懸念は頭の片隅にずっとあった。
【そう言われるとすごい気になる。楽しみだな~】
彼女はしめしめと言わんばかりの表情を見せている。
自ら墓穴を掘ってしまったようだ。
それから、この一週間の出来事など他愛もない会話をして刻々と時間は過ぎていく。
時間が経つにつれ、今日としから与えられた新たなミッションを遂行する時間も迫ってきていた。
「じゃあそろそろふみちゃんも帰らないといけないと思うから渡しとくね」
夢物語が僕の手を離れて、彼女の元へ渡る。
【ありがとう。帰って読むの楽しみ!じゃあまた来週ね。】
そう書き終えると、彼女は二冊のノートを鞄にしまい始める。
これは今日の別れを告げる合図であり、ここで言わないとミッションを完遂できるチャンスはなくなってしまう。
「よかっ、たら、なんだけど途中まで、でもいいから一緒に、帰らない?」
かなりしどろもどろではあったが、何とか最後まで伝え切ることができた。
彼女は当然の如く吃驚しており、間に耐え切れず目を逸らしかけた瞬間、彼女の口角が僅かに上がったのが目に入った。
もう一度しっかりと視線を彼女のほうに向けて固唾を飲む。
すると、優しさの中にも照れがあるような、そんな微笑みを浮かべながら小さく頷いた。
_______________
今日の土手は風が強い。
いつもならメガネが飛んでしまいそうで甚だ迷惑であるが、今日は風の音が無言の空間のちょっとした気まずさを和らげてくれる。
僕は彼女に、帰り道ではノートは出さなくていいと言った。
歩きながらノートに文字を書くのは大変だと考えたからだ。
ただ、その優しさがちょっとした気まずさと極度のプレッシャーを連れてきた。
冷や汗がじっとりと肌に染みる。
左斜めにいつものように高いビルが見えるのだが、今はそれを見つめることしかできず、自転車の車輪の回る音が無情に鳴り響く。
結局そのまま目も合わせることができずに、分岐点まで来てしまった。
「ふみちゃんこれどっち行くの?」
彼女は右を指差す。
「僕は左なんだよね」
すると彼女は、『じゃあここで』という意味であろうジェスチャーをして、手を合わせながら軽く会釈する。
「こちらこそありがとう。じゃあまた来週」
自転車のペダルが回転する度に小さくなっていく彼女の後ろ姿を見ていると、自分から誘っておいて何もできなかった自分の情けなさに、無性に腹が立ってきた。
怒りの中には彼女への申し訳なさも含まれている。
今日ほど、としのような性格になれたらと願ったことはない。
しかし、そんなことは自分には不可能なので一旦思考をリセットする。
風でずれるメガネを何度も直しながら自転車を押して歩いていると、いつの間にかさっきまで遠くに見えていたビルが目の前に聳え立っていた。
遠くで見ていたときとはガラッと印象が変わって、威圧感がもの凄い。
しばらくビルを眺めていると、ある考えが脳裏に浮かんだ。
確かにゴールはまだまだ先かもしれない。
でも、このビルに辿り着いたように一歩一歩着実に歩を重ねていけば必ずゴールに近づいていくんだと。
そう、焦る必要はないのだ。
「一歩ずつ、一歩ずつ」
そう自分に言い聞かせるように小さく呟き、ビルから目線を前に向けて自転車に跨る。
そして、未来への一歩を着実に、力強く踏み出した。
◇
『第二回 夢物語』
タイトル考えてくれてありがとう。
積み重なっていく感じがあって、すごく良い!
ノートを開く前は緊張と高揚感で、何だかとても不思議な気分でした。
そしていざノートを開いた瞬間、女の子みたいな丸みを帯びた字が目の前に広がって、最初少し笑ってしまいました。
ごめんね。
でも、それと同時にとても温かい気持ちにもなりました。
啓太君の人柄同様、文字から優しさがすごく伝わってきたんです。
これから夢物語を通して啓太君のこの文字を見続けられると思うと、今は嬉しさで胸がいっぱいです。
それから内容も、啓太君にとって書きにくいこともあったと思うんだけど、包み隠さず書いてくれたことが本当に嬉しかったです。
ありがとう。
私も何について書こうかずっと迷っていたんだけど、啓太君が書いてくれたように自分のこれまでについて少し書こうと思います。
私も実は、友達と呼べる人がほとんどいません。
ほとんどというかたったの一人だけで、その子とは高校に入学してから出会いました。
私は啓太君と違って、今まで自分から人と関わることを避けてきたんです。
話せない私と一緒にいても迷惑がかかるだけだとずっと思っていました。
でも、その子は高校でいつも一人でいる私のそばに、何故だかずっといてくれたんです。
そこに会話はありません。
お互い本を読んでいるだけです。
最初は不思議で仕方なかったんだけど、次第にその子に興味が湧いてきて、思い切って啓太君とコミュニケーションを取っているようにノートに文字を書いて聞いてみたんです。
『どうしていつもそばにいてくれるんですか?』って。
そしたら『ただそばにいたいから、そばにいるだけです』と言ってくれたんです。
その時は嬉しくて、思わず泣いてしまいそうでした。
それから少しずつその子とコミュニケーションを取るようになり、今では素直に何でも言い合えるような関係で、心から信頼できる私の親友です。
その子との出会いは、今まで闇の中に埋もれていた私に一筋の光が差し込んできたような感覚でした。
本当に出会わせてくれた神様には感謝しかありません。
それから最近になって、もう一つ素敵な出会いがありました。
啓太君との出会いです。
私は男の子とは全然話したことがなかったので、最初は正直少し怖かったです。
でも、関わっていく中で啓太君が持っている優しさや温かさがじんわり伝わってきて、自然と心を許すことができました。
これから啓太君と夢物語を通して色んな話ができると思うと、今は楽しみで仕方ありません。
ごめんね、私も長々と…。
きりがないのでここで終わりにします。
最後に
〝啓太君の夢がみつかりますように〟
